龍殺しの少女 第六章


「ここで、探して欲しいものがあるの」

「何をですか?」

「火薬、もしくはそれに類する、爆発性のあるもの」

 それらがあれば、そこらの砂や木屑を混ぜて爆弾を作れる。

 これなら龍に近づく必要はないから、投げつけた後アタシはただ心臓を狙えばよくなる。

「火薬ですか」

「こんな妖しげな教団なんだもの、絶対にあるはずよ」

 アタシは、そこらの箱をひっくり返し始めた。

「あっ、マリーは休んでいてください」

 しかし、すぐにマリアに慌てて押し止められてしまった。

「これくらい大丈夫だって」

「ダメです。マリーは体を休めていてください。

私は戦うことができませんから、せめてこれ位は役に立ちたいんです」

「動き回れる位には、回復してるんだけど」

「それでもです。また後でマナが回復したら、リカバリーをかけますから」

 マリアに強く言われ、アタシは大人しく従うことにした。

 ラストバトルに備え、体力を温存しておきたいのは事実だ。

 アタシは地面に座り込み、目を閉じ精神を集中していく。

 静かにして目を閉じていると、龍達の戦いの様子が耳の中に入ってくる。

 二匹の龍が激しく咆え、戦い続けている。

 龍の咆哮を最初聞いたときは、恐怖に支配された。

 でも今は平気だ。

 これもマリアのおかげだろうか。

 よくよく考えれば、アタシが龍と戦おうとしているなんてお笑いだ。

 ここには、ネクロのお宝を頂戴しにきただけのはずなのに。

 おまけに、聖職者とパーティなんて組んじゃって。

 マリアとは少し前に知り合ったばかりだというのに、

 親しげに名前を呼び合う中にまでなってしまった。

「マリー、見つけました」

 そのマリアの声に、アタシは目を開けた。

 完全に心を落ち着かせることが出来た。

「ほんとっ? どれどれ」

「これなんですけど」

 マリアが差し出したものを見る。

「うわっ、これって・・・・・・」
 マリアの手には、火薬どころではなく、爆弾そのものが握られていた。

 しかもマリアの後ろをみると、大量に爆弾の詰まった箱があった。

「どうでしょう、使えそうですか?」

「んー、ちょっとまってねぇ」

 アタシはその場で、爆弾を一つ解体し始めた。

 中に何が入っているかわからないし、火薬が湿っていては使い物にならない。

 爆弾はお粗末なつくりで、苦労することなく解体できた。

「ふーん。素人っぽいつくりのわりに中身はちゃんとしてるわね」

「そうなんですか?」

「うん、これなら使えそうだわ。っと、とととっと」

 爆弾を元に戻そうとしたところで、部屋が大きく揺れた。

 爆弾を落としそうになり、慌てて押さえる。

 悲痛な龍の叫び声が大空洞から聞こえた。

「どっちかが倒されたようね。ま、デスペラードワードが倒されたと見て間違いないわね」

「いよいよですか」

「そうね」

 マリアがアタシの手を握ってきた。

 私も力強く握り返す。

「私、もどかしいです。情けないです。本当は一人でなんとかするはずだったのに」

「だからぁ、それはさっきいったでしょう?」

「わかっています。ですから、全てをマリーに託します」

 不意にマリアがアタシを抱きしめた。

 "リカバリー" "ブレッシングヘルス" "ブレッシングスキル" "ロックスキン" "ホンアモリ"

 その状態のまま、マリアが補助魔法を次々に唱えていく。

「もし、マリーが倒されるようなことがあれば、私はここにある爆弾全てを使って、大空洞を壊します」

「そんなことしたら、マリアも生き埋めになっちゃうわよ」

 アタシもマリアを抱きしめた。

「構いません。龍が街へ出るのを止められればそれで」

「それじゃ、アタシはどうあっても負けるわけにはいかないじゃない。

マリアを生き埋めになんてしたくないもの」

「はい。私も生き埋めになんてなりたくありません。だから勝ってください」

 マリアは一度アタシを抱く腕に力を込めた後、ゆっくりと離した。

「了解。絶対勝ってみせるわ」

 アタシも、ゆっくりとマリアの体を離した。

「行きましょう、マリー」

「オーケー、マリア」

 アタシ達は、再び大空洞へ向かって駆け出した。