龍殺しの少女 第四章


「うぁっ」

 思わず驚きの声が漏れた。

 そこは大空洞になっていた。

 大きな円形の部屋の周りには、いくつも横穴があり、無数の松明が壁につけられていた。

 上を見上げれば、空が見えた。

 何時の間にか光は陰り、闇が姿を現そうとしていた。

 目線を戻し、部屋の中央をみれば祭壇があり、数体のネクロがいた。

 祭壇の両端で、かがり火が燃えていた。

 祭壇のまん前にいるネクロは、あきらかに他のネクロとは格の違う雰囲気を醸し出していた。

 ネクロの祭司といったところか。

 よく見れば、身に付けているローブも違っていた。

 祭司の姿をしたネクロは、手を大きく振り上げ、何かに祈っていた。

「どうしましたか?」

 少し遅れてマリアが後に続いてきた。

 そして、この場所を見て目を見開いた。

「ここは一体」

「サラセンダンジョンに、こんな場所があったなんてね」

 ここがホントの、ネクロ教団の本拠地なのだろう。

 今まで壊滅させたと思っても、知らないうちに復活しているわけだ。

「あ、あ、あ・・・・・・」

 変な声を出すマリアを見れば、祭壇の先を指し、震えていた。

 祭壇の先には、複雑な魔方陣が描かれ、中央に何かが置かれていた。

 ここからでは確認することが出来ない。

「どうしたの?」

「あそこです。あの場所に邪悪な気配が満ち溢れています」

 マリアの指差す先で、祭司のネクロがこちらに気が付いたのか、振り向いた。

「オーケー。あいつらが何をしようとしてるかは知らないけど、儀式をぶち壊してやればいいのよね」

 祭司のネクロが周りのネクロに何かを告げると、ネクロ達が一斉に襲ってきた。

「絶対に阻止しなければなりません」

「まかせなさい、たかが数体のネクロじゃ時間稼ぎにもって、えー!」

 ダガーを構えなおしたところで、私は目を疑った。

 周りの横穴から、次から次へとネクロが湧き出してきたのだ。

「うっそ、まだこんなに居たの!?」

「邪悪な気がどんどん高まっています。時間がありません」

 マリアが不安げに言う。

「くっ、全力でいくわよ、サポート頼むわよ!」

「わかりました」

 "ブレッシングスキル" "ブレッシングヘルス"

 マリアの補助魔法がかかると同時に、アタシも力を行使する。

 "ブリズウィック"

 アタシの背後から風が吹く。

 強い強い暴風。

 その風に身を任せ、私は駆け出した。

 広い空間をアタシは風と同化し、縦横無尽に駆け抜ける。

 立ちはだかるネクロを一刀の元に斬り伏せ、祭壇のネクロを目指す。

 しかし、ネクロは死を恐れはせず、自らの体を盾にして祭司のネクロの周りを囲み、守り抜こうとする。

 これでは、容易に近づくことが出来ない。

「こいつら、もう戦う意志はないみたいね」

 完全に守りにだけ力を割いている。

 やっかいだ。

「くそっ」

 こうしてる間にも、祭壇では儀式が続いている。

 次第に祭壇にいるネクロの動きが激しくなってくる。

 祭壇の炎が一際激しく燃え出した。

 炎が天を焦がすかごとく伸びていく。

 魔方陣が光を灯しだす。

 これは、ヤバイ。

「マリア下がって!」

 全身の毛が逆立った。

 次の瞬間、魔方陣が光り輝き出した。

 魔方陣の光は空へ伸び、部屋を光で埋め尽くしていく。

 ボンっという音が周囲でしたかと思うと、先ほどまで戦っていたネクロ達が次々に消滅していく。

 この強烈な光に耐えられなかったのか、体に宿る瘴気を撒き散らし、全てのネクロが消え去った。

 祭司のネクロすら、掻き消えた。

 そして・・・・・・。

 ク"ゥォァアアアアアアアアアア"ォォオオオ"オ"―ーー!!!!

「ひっ」

 魔方陣の中から、何かがゆっくりと姿を現した。

 大地を揺るがす叫び声。

 圧倒的な力の鼓動、存在感。

 赤と青の巨大な姿が浮かび上がる。

 そいつらは、魔方陣の中央に置かれていた何かを貪った。

 血が飛び散る。

 血!? 

 顔に付着した赤い液体を拭う。

 間違いなく血だ。

 そいつらの口から、何かがこぼれ落ちた。

 それは、人の腕だった。

 魔方陣の中心に置かれていたものは、生贄にされた人間だったのだ

 アタシは無様にも尻餅をつき、後ずさった。

 嫌だ! 嫌だっ! 逃げ出したい。

 逃げなければ、殺される!

「はぁっ、はぁっ!」

 心が恐怖に支配される。

 こいつらは、こいつらはまさか・・・・・・

 ディグバンガーの奥に潜むといわれている、伝説の龍。

 ハイランダーとデスペラードワードじゃないのよ。

 こんなのに勝てるわけがない。

「はぁっ」

 逃げなければ。

 見つかる前に。