龍殺しの少女 第三章


 アタシは、久しぶりに緊張しながら戦っていた。

 自分のことだけを考えていればいい、いつもの戦いとは違う。

 常にマリアの方にも意識を置いておき、

 マリアが狙われるようなことがあれば、すぐに助けに行かなければならない。

 結構難しい。

 それが素直な感想だった。

 敵の中に突っ込みすぎて、マリアを置いていくようではいけない。

 逆に敵を近くに寄せすぎると、マリアが狙われやすくなる。

 どこで戦うか、その見極めがまだできないでいた。

 初めてパーティを組むんだから、それは仕方のないことだとは思っているけれど、

 仕方ないで済ませるわけにもいかない。

 戦いながら、そのさじ加減を必死に探っていく。

「ふぅっ!」

 ネクロを斬り伏せ、一瞬だけ周りに視線を動かし、互いの位置を把握する。

 少し離れすぎているかも・・・・・・。

 慣れないことの連続で、神経が磨り減っていく。

 しかし、その変わりに得るものは大きかった。

 マリアが絶えず回復魔法を唱えてくれるおかげで、アタシの動きは絶好調だった。

 確かに聖職者がいてくれると楽だわ。

 回復魔法のおかげで、疲れることなく敵と戦いつづけることができる。

 ネクロの攻撃によってできる傷は、一瞬にして治る。

 アタシとマリアは、踊るようにして部屋を駆け巡った。

 初めはぎこちなかった動きも、お互いを理解しあうことで、歯車が合いはじめてきた。

 部屋を埋め尽くすネクロ達を半分ほど倒した頃、聖職者と・・・・・・マリアと戦うことに慣れてきた。

「アタシ達、結構いいコンビかもね」

 少しネクロ達から距離をおき、一呼吸する。

 軽口を叩く余裕も出てきていた。

「私もそう思っていたところです」

 マリアは、自分で敵を倒すことよりも、他人を癒すほうが向いているのだろう。

 一人で戦っていたときには余裕がなさそうな表情をしていたが、今では完全に落ち着いていた。

 もうすでに、ネクロ達の数も少ない・・・・・・。

「それじゃ、残りもお掃除しちゃいましょうか」

「はいっ」

 アタシは、再びネクロ達の群れの中に踊りかかる。

 ネクロ達も必死に応戦してくるが、もはやアタシ達の敵ではなかった。

「ギィィィ、ギィイィィィ」

 残り数対となった頃、一体のネクロが耳障りな雄叫びを上げた。

「うるさいっ」

 叫び声を上げるネクロを斬り伏せる。

 その時、残っていたネクロが一斉に逃げ始めた。

 逃げる方向は全部一緒。

 やつらが出てきた場所だ。

 この期に及んで、悪あがきをするつもりだろうか。

「チッ。マリア、追うわよ!」

「はいっ」

 アタシ達は逃げたネクロ達の後を追い、部屋の奥へ進んでいく。

 逃げるネクロは、意外にも足が速かった。

 けれど、離されるほどでもない。

「ギィィィィ」

 逃げるネクロ達の間で、再び叫び声があがると、一体のネクロが足を止め、こちらに向かってきた。

 他のネクロ達は曲がり角を曲がっていく。

「時間稼ぎのつもり?」

 ダガーの切っ先をネクロに狙い定め、アタシは迷うことなく突進していく。

 ネクロは杖を正面に構えると、そのまま地面に突き刺した。

 両手を杖にかざし、ブツブツと何かを唱えていた。

「呪文? そんなもの今更効かないわよ」

 あと数歩で手が届くというところで、ネクロの目が妖しく光った。

 と、同時にネクロの体が弾けとんだ。

「なっ!」

 ネクロの体から溢れた瘴気が通路に溢れかえる。

 瘴気は完全に闇と化し、アタシの視界は完全に奪われた。

「くそっ」

 どうやらネクロは自らの瘴気を使い、強力な目くらましをしかけたようだ。

「マリアっ、大丈夫っ!?」

「はい、大丈夫です。少し待っていてください。すぐに解除してみます」

 ネクロ達がこの暗闇に乗じて襲ってくるかと警戒したが、それは無いようだった。

 完全に逃げに徹していたようだ。

 アタシは気配を頼りに、マリアの傍に近づいた。

 マリアの持つ光の気配は、この暗闇の中で一際存在感を示しているので、見つけるのは簡単だった。

「全ての闇を打ち消す光をここに」

 "ホーリービジョン"

 呪文を唱え終わると、マリアを中心に強い光が輝き出した。

 それは一瞬にして通路に広まり、瘴気を払いアタシの視界も正常に戻った。

「やるぅ」

「いえ、そんな。闇を払うのは初等魔法ですから。それよりも後を追いましょう」

「そうね」

 目をこすり、ちゃんと見えてることを確かめ走り出す。

「あれっ?」

 通路を曲がると、そこは小さな部屋があり行き止まりになっていた。

「確かにこっちよね?」

「えぇ。間違えようがありません」

 先ほどの場所からほとんど離れていない。

 当然、他の通路や部屋もない。

 ここ以外に来ようがないのだ。

「闇に乗じて逆へ行ったとか」

「私たちの横を通って? それは無いと思うけど」

 そんな気配はまったくなかった。

「では一体・・・・・・」

 まるでキツネかタヌキに化かされたようだ。

「隠し通路がるのかもね。少しこの部屋を調べてみましょう」

「はい」

 アタシ達は手分けして壁や、部屋の中に置いてある物をくまなく調べた。

 しかし、手がかりになりそうなものは発見できない。

「うーん、まいったね」

 お手上げね、とマリアを見ると、マリアは部屋の中心で膝をつき、何かに祈っていた。

「マリア?」

 不思議に思って声をかけると、マリアはゆっくりと立ち上がり、正面の壁に歩み寄っていった。

「この壁から、悪しき力を感じます。とてつもなく巨大な力」

 壁に手をかざし、数箇所に触れていく。

「魔法の壁があるみたいですね。瘴気が渦巻いています。ここと、ここ、それに・・・・・・」

 マリアは壁に、何度か手を触れていく。

 計六箇所に触れ終わったとき、壁が不意に光り出した。

 マリアが触れた場所が光り、六芒星を描いていく。

「これで解除できたはずです」

 マリアが手を伸ばすと、壁の中に腕が吸い込まれていった。

「ふぅん、なかなか凝ったことしてんじゃないネクロも」

 アタシは、恐る恐る壁の中に足を踏み入れた。

 体がなんの抵抗も無く、壁を突き抜けていく。

 三歩進んだところで視界が開けた。