Ancient memory 第九部 Z Z 「いいかノディ君、マモ、オレがトールを油断させるからその隙を狙ってくれ」 「んじゃ俺が何とかトールを動けなくさせるからマモっさんが捕まえる作戦かな」 「ヤツはデカい、手伝え」 「だからマモっさんだけでって意味」 「私しかお前を殺せないと、そう言いたいのか」 「そこらの雑魚騎士とオレを一緒にするのはいい案じゃないぞ」 「ふふっふっはははは!私がお前を殺すのならばお前も私を殺す気なのだな?」 「お前は生かしておけん、遠慮なくやらせてもらう」 「殺し合いをあまりナメるものじゃないぞ」 トールが宙を撫でるように手を動かすとそこに一本のハンマーが現れた。 ハンマーというのはあまりいい表現ではないかもしれない。 持つ部分は短く、代わりに3メートルほどの長い紐が結ばれており、投げるものだと予想される。 どんな仕組みだろうか、いきなりハンマーが宙に出てくるなどありえない話だ。 「さぁ、始めるぞ!」 「どうなってんだ?いきなりハンマーが出てきたぜ」 「あれはトールの武器、『ミョルニル』だ。まさかあれを出すとは・・・ ディス、動けなくさせるだなんて甘いことはやめろ」 「・・・どういう・・・」 「殺すつもりでかかれ、じゃないと・・・お前が死ぬぞ」 「ノーディ、気をつけてね」 騎士団の背後のミルレスの森の木の上から3人が小声で話している。 いきなり自分の死の危険を告げられたノーディの首に一筋の汗が流れる。 マモも険しい顔をしていた、杖を握る手の甲に血管が浮かぶ。 テイルはただ一人心配するしかなかった。 トールがミョルニルの紐を伸ばし横に思い切り振った。 ガイはそれを上に跳びかわすがすでに第二撃は来ていた。 横殴りのときの勢いを弱めることなく上段から鉄槌が振り下ろされる。 早すぎる、避けられないと判断しナックルをつけた手の甲でミョルニルを受ける。 突如、雷光が輝いた。 目が眩み、やっと開いたと思ったときはガイの服が黒く焼け焦げている。 彼自身も皮膚が黒くなり、口から血も吐いている。 何が起きたのか・・・ 「このミョルニルは万物を引き裂く雷光を纏っている。 そのようなチャチなもので受けられるわけがない!」 ガイが口の中に溜まった血を地面に吐き捨てる。 そのあと、少し笑った。 「ふん、気でも狂ったか」 再度紐を伸ばしミョルニルを大きく振り回し始める。 鎚の部分は直径40センチくらいもある巨大なものなのに軽々と振り回していた。 おそらくガイ以上の怪力の持ち主なのだろう。 彼もさきほどの攻撃を受けたときにそれを悟っていた。 ガイが後ろで見ている聖職者に親指を立てて何か合図をした。 聖職者たちは何十人もいたが、彼が送った相手はただ一人。 「さぁ来い!」 「粋がるな小僧め!」 ミョルニルがまた横から迫ってくる。 今度は一歩退いて攻撃を避けるがこれ以上は下がれない、後ろに聖職者たちがいるからだ。 だから前へ、とにかく前へ走ろう。 次のもう一周が来る前に。 「今だっ!」 次の一周が来るまでに一秒少ししかないだろう。 その間にできるだけトールに近づいて、そして『彼女』が投げた杖を受け取って・・・ ガイが受け取った杖がミョルニルの紐に絡まる。 杖を地面に突き刺し、雷を纏う部分が触れる前に離れる。 杖と鎚が接触する、しかし地面へ電が流れ、雷が炸裂することはなかった。 偉大な土。強大な破壊力を持つ雷光をほとんど無力にしてしまう大地。 その力を借りて彼は今、決着をつける。 トールの目の前まで近づいていたガイの拳がトールの足元の地面を叩きつける。 爆発が起こる。 トールの背後にいた騎士団を巻き込んで家一件は吹き飛ばしてしまいそうな強大な爆発を彼は起こした。 大地の怒り、それはまるで夜明けに見れる空がオレンジ色に染まった色のようで、 熱き闘志のようで、だけれど懐かしい色のようで。 いつまでも見ていたいそこに逃げ出したいそこで永遠を感じたい色で。 何もかもを包んでくれる優しい色のようで・・・