Ancient memory 第九部 [ [ 「動くなよっと」 「さもないと首をヘシ折るぞ」 大地の怒りによって巻き上がった粉塵が晴れる前にノーディはトールの首に短剣を当てていた。 マモは怯んだトールの背後に回り、杖を首の前に当て両端を掴んでいる。 テイルは力が無いのでそのようなことは出来ないがせめて2人の邪魔が入らないよう周りに警戒していた。 それに気づいた騎士団の者たちがトールを心配する声を上げる。 「く、くく・・・面白いことをする連中だ」 「死にたいのか?それ以上喋るな」 杖に加える力を上げる、既に顎は完全に持ち上がっておりトールは抵抗できない状態だった。 だが降伏する様子もなく言葉を続ける。 「久しぶりだなマモよ」 「二度と見たくない顔だったがな」 「・・・知り合いか?」 「知らないのか小僧、こやつは魔女戦争の時」 トールの言葉が遮られる。 マモが杖で首を抑えるのをやめ、トールの顔を思い切り殴ったからだ。 口の中を切ったのだろうか口の端から鮮やかな色の血が流れる。 「貴様・・・!」 「そう熱くなるな、いいか小僧。 魔女戦争で大量の魔女が殺されたことは知っているな。それにミルレスの者も参加した」 「やめろ!」 マモが再度トールの顔を殴る、だがトールは堪えた様子も無く言葉を続けようとする。 ノーディは混乱していた。 何故マモがここまで取り乱すのか、トールとマモの関係は何なのか。 やっと砂埃が晴れてきた。 ガイはさきほどの技で力を使い果たしたのかうつ伏せに倒れて意識が無い。 ユウも近くに駆けつけており、やっとミルレス護衛隊5人が揃った。 「終わったことはもう話すな!」 何度も、何度もトールをマモは殴りつける。 もう目が異常なまでに血走っており、このままでは殺してしまいそうだ。 トールもここまで殴られていれば顔が腫れあがり、ひどい状態になっていた。 「マモさん、もうやめて!」 テイルがマモを制止し、やっと治まる。 「お前とマモっさんの関係がどうだか知らないけど、これ以上余計なこと言ったら遠慮なく斬るぜ」 ノーディもここまでマモを乱す奴を放っておくほど寛大じゃなかった。 彼の目は血走ってはいなかったが人間を見る目をしてはいなかった。 「のーちゃん・・・」 「変わったな、仲間が出来るほどにまで・・・ならばこれをどうする?」 地面に突き刺さっている杖に絡まったはずのミョルニルがノーディを心配するユウの背後に浮かんでいた。 何故かはわからない。だけどこのままではユウが危なかった。 ミョルニルが容赦なくユウへと迫った。 彼女がそれに気づき振り向いたときには、そこにミョルニルが見える空間は無く、 ただ大きな、マモの背中が見えるだけだった。 巨大な雷がマモを襲い、近くにいたノーディたちも目が眩み動けなかった。 目を瞑った直後ノーディが気づく、しまった。 逃がしてしまった。 「ユウ、無事・・・か?」 「う、うん・・・うん・・・でもまもちゃんが・・・」 「邪魔者は捕らえろ!古代の武具を探すのだ!」 戦いが始まる咆哮が響いた。 ルアス騎士団たちの地面を揺らす声がミルレス全土に響き渡る。 ノーディたちを捕らえる隊なのだろうか、騎士の一人がユウを後ろから地面に押さえつけた。 「うぁっ」 「てめぇ、放せっ!」 ノーディが騎士に跳びかかり、 ユウを解放させようとするが横から出てきた騎士が剣の鞘で殴りつけその場に倒れこんでしまった。 その間にテイルもユウと同じように捕まり、ついに5人とも動けなくなっていた。 「放して!放してよ!まもちゃんが!」 「うるさいぞ!」 暴れるユウの頬を殴る。 ノーディはまだ助けようと手を伸ばすが届かない、届いても今の彼は無力だった。 視界の端で僅かに見えた、立っている。 「おい・・・何ワシの友達に手出してるんだ・・・!」 マモを押さえつけていたはずの騎士は鼻を陥没させて気絶していた。 ガイほど鍛えていないのにマモはミョルニルを受けてまだ立った。 ユウを押さえている騎士が驚いた顔になる前に、マモの杖が彼の顔にめり込む。 悲鳴を上げてのた打ち回る騎士を尻目にマモは次々に他の騎士を殴り飛ばしていった。 様子が変なことに気づいた他の隊がこちらに向かってくる前にマモが一言呟いた。 「・・・ありがとう」 テイルの杖を借り、2本の杖を交差させて十字を作る。 騎士が切りかかる直前に彼は祈りの動作をした。 煌く閃光、吹き抜けるように通るそのあとの慣れない目が見る暗闇。 かつてネクロケスタに放ったプレイアは単体を攻撃するような小さく鋭い衝撃波とは違った。 さきほどの大地の怒りのように巨大で、寧ろもっと大きく切り裂くというよりは爆発していた。 隊が一つ全滅するほどの巨大な爆発に戦いは一度静まった。 膝を折り、右手で額を支えるような姿勢をとるマモの左手が握っていた2本の杖は跡形も無く砕けていた。 そして、彼は倒れた。