Ancient memory 第九部 Y Y ついに、この日だ。 ガイは昨晩から出窓から顔を出し、森の方を見つめている。 既に日がわずかに顔を出し空をオレンジ色に染めていた。 その色はまるで熱き闘志のようで、だけれど懐かしい色のようで。 いつまでも見ていたいそこに逃げ出したいそこで永遠を感じたい色で。 けれど来た。 小さい頃聞き飽きるほど耳に入れた鎧の鉄板が擦れる音。 ルアス騎士団がミルレスの森の中からぞろぞろと出てくる。 みなきちんと列を作り並び、いつ襲い掛かっても立ち向かえるような鋭い目をしていて、 だけどどこか生きていない、何も見ていない。 意思を持つのを禁じられたような、人形のような・・・ 聖職者たちは既に彼らの存在に気づき、外に出て様子を伺っていた。 男は杖を片手に持ち、女は胸元につけている十字架のネックレスを両手でしっかり握り、 子供は女の服の裾をしっかり掴んで離そうとしない。 騎士団の中からいつか見た顔の男が出てくる。 「ルアス帝国バハラ王宮守護騎士隊長トール、ミルレスの町長と話をしに参った」 長く赤い髭を生やした老人だ。 だが筋肉は全く衰えておらず、身長も二メートル弱あるだろう。 声も広いミルレスに伝わるほど締まっていた。 呼ばれたミルレスの町長がトールの前へと杖をついて歩いてくる。 こちらも長い髭を生やしているがトールのように筋肉も無く、一捻りでくたばってしまいそうな老人だ。 だがほとんど開いていない目の色は限りなく青く、まるで空をイメージするような完全な青だった。 「何の用だ・・・わたし達は魔女戦争で戦いは懲りたぞ?」 「用件は戦力の要求ではない。 メント文明から遺された武具がミルレスにあると聞いたゆえに探させてもらう」 「そんなものは無い、帰ってくれ」 「ならば強行手段を取る、町長を捕らえよ」 トールの声は力強かったが冷えていた。 まるで自分以外の人間を何とも思っていないように躊躇い無く指示を出す。 騎士団の中から一人の男が前に出、町長の両手を強引に後ろに重ね縄を結ぼうとする。 しかしその手は止められた。 「ぐぅっ!?」 「悪いが待ってもらおうか」 ガイが男の顔を大きな右手で掴み、左手は男の手を潰すほどの力で握っていた。 町長の手を離した男は一度退く。 しかしそれでは済まないだろう、トールがこちらを睨みつけている。 「お前は十数年前ルアスを出て行ったあの子供か。聞いているぞ」 「随分小さなことも聞くんだな」 「殺せ、とな。ヤツの相手をしろ」 指示されたのは部隊長格の男、剣と盾を構え遠慮なく前へ進み出てくる。 「オレは過去に剣を捨てた。殺せると思うなよ」 勝負は一瞬だった。 ガイの燃え盛る拳が盾を砕き、男の顔を強かに殴り飛ばした。 数メートルも吹き飛ばされる拳を受けた男は口と鼻から血を止め処なく出し、 うめき声も上げずに痙攣していた。 戦いを見慣れていない一部の聖職者が小さな悲鳴を上げる。 ガイはそれを悲しい目で少しだけ見た、しかしすぐに目は殺意に燃える。 「オレを殺したければお前が相手をするんだな」 彼の強い指はトールを指している。 髭の中の口が、気味悪く歪んだ。