Ancient memory 第九部 X X 顎の右から左へと革のベルトを伸ばし、しっかりと兜を固定する。 兜は額前面を防護するだけで、後頭部まではできていなかった。 そこから覘かれる見慣れた赤い髪が彼をジェイスという証拠。 「さてっと、後ろも団体さんみたいッスし・・・行きますか」 両手を上の思い切り伸ばし、 一際大きな欠伸をするなまけた様子だが背後には殺気立ったノカンの大群がじりじりと寄って来ていた。 「こうなりゃ突き進むだけだな、階段も駆け下りるぜ!」 合図も無しに、しかし誰が遅れることも無く3人は同時に走り出した。 階段を降りればそこはもう地下4階・・・ 3人は立ち止まる。 立ち止まらざるを得なかった。 ディグバンカーに潜って最初の部屋、大きな空間と大量のノカンがいたが 今ここにいる全てのノカンはその数倍、もしかしたら十数倍いるかもしれない。 それほど、目を疑うほど、肉の壁のような状態で彼らはこちらを睨んでいた。 「私もう、これ以上我慢できないからちゃっちゃとやりましょ」 珍しくセルシアが眉間に皺を寄せ、少し怒っている様子でウエストバッグを開けた。 長い時間洞窟の中に滞在し、機嫌が悪くなっていたのだろうか。 彼女の取り出したモノを見た2人は下の口を思い切り下げることしかできなかった。 爆音、目に染みるような煙。 ノカンたちの中に放り投げられた爆弾は容赦なく中心から外へとノカンたちを吹き飛ばし、 まるで花のように綺麗に倒れていった。 「大丈夫、威力は無いわ」 「いやぁ・・・そういう問題じゃ・・・」 平然と倒れながら咳き込むノカンたちの上を通る、ここまで平然だと逆に冷酷だ。 ノカンたちが咳き込んでいるのはセルシアが仕掛けたトウガラシの粉、ペパーボムの影響だった。 少しすまなそうな顔をして上に足を乗せた。 「俺たちも拷問だな・・・」 「そうッスね・・・」 一歩ごとに下から聞こえる苦しそうな声に2人は半泣き状態だった。 5階へ降り、3人は本当に帰りたくなった。 長い道だとは聞いていたがここまで長いとは、5階の地図を見て愕然とする。 スオミほどの町の大きさの洞窟がさらに一本道が渦のような形を描いていた。 看板に書いてある注意書き・・・ [中心まで徒歩で5時間、走って3時間、ジャイアントキキで1時間] [途中休憩を挟まないと危険なので途中のテントで休憩を取ることをおすすめします] 並んで歩き出す、誰が先頭でもない。 場に耐えられない者が何かと雑談をふっかけるが長く続かない。 このシンとした空気が嫌だ、この生ぬるい空気が嫌だ。 3人は精神的にも肉体的にも限界を迎えようとしていた。 そしてふと気づいた、何故いままでこれに気づかなかったのか不思議なほど。 この大空洞の中心から恐ろしいほどの魔力が流れ、大空洞を充満させている。 [中心まであと4時間] ディグバンカーに潜ってから7時間 外は既に夜中・・・ Hunting result 『絶望』