Ancient memory 第九部 W


W


ザストたちのあとはまた大きな部屋とノカン。
ノカンを抜けたあとは左右に連なる部屋ばかり、
どちらに進むのかわからないセルシアたちは段々と疲れが出ていた。

そして槍を杖代わりにして先頭を歩いていたジェイスが情けない声で後ろの2人に見えたものを教える。

「あったぞ、階段だ・・・」

2人は返事をせずにもくもくとジェイスに続き階段を降りる。


階段を降りたあとで見たものはこの地下要塞でおそらく一番珍しくない生き物。

「ノカンノカンノカン・・・っだー!2人とも何もしなくていい!俺について来い!」

ジェイスが業を煮やし、鎧を脱ぎ捨て長袖の黒いシャツ一枚になる。
槍を両手で構え、馬鹿正直に飛び掛ってきたノカンをまるでバットをスイングするように横に振った。
思い切りいい当たりをしたノカンは後ろの群れに突っ込んだ。
ドミノのように次々と倒れるノカンたちを無視し、ジェイスは奥に見える扉へと走り出す。
あっけにとられていた2人もすぐに気を取り直して後を追った。

「邪魔だ邪魔だぁ!」

扉を開けるまでもなく蹴破り、
飛び掛るザストを逆に頭突きで返し、ノカンが群れているとそこに長い槍を横に振り回す。
ここまでくれば一国の王子の姿など欠片もない。

「兄貴頑張ってるッスねぇ・・・」
「そうねぇ・・・」

また飛び掛ってきたザストを槍なのに上段から思い切り振り下ろした。




「ど、どうだ・・・速かっただろ・・・」

もう立ち上がる気力も無いのか、
しかし暴走を始めてから一階を抜ける時間と同じほどの間に2回も階段を降りることができた。
さらに目の前には階段、かなりのスピードでここまで走り抜けてきた。

「にしても・・・この洞窟、いつまで、続くん・・・だろう、なっ」
「さぁ・・・もう、終わると・・・いいんス・・・けど」

言葉が理解できなくなる一歩手前まで切られたようになんとか喋る。

ジェイスは腰を下ろし、まるで上半身を支えるように手を後ろに立て、顔は天井を見つめていた。
もとから暗い洞窟だが、突然さらに暗くなった。

「のぁっ!」

転がるように避けたが一歩遅れていたら頭が地面にめり込むほどでは済まないだろう。
今さっきジェイスがいた場所に突きたてられた巨大な大木を握り締めるのはそれが似合う巨大なノカン。

「疲れてるってのに・・・」

大木を引っこ抜く前にジェイスが腹に拳を叩き込む。
今が好機とセルシアが少し俯いたノカンの顔に飛び蹴りをして追撃する。
ノカンが倒れると少し地面が揺れるほどの衝撃が広がった。
しかしその音の中で一つの金属音が鳴った。

「ん、兜か・・・こりゃかなりの高級品だぜ」

緑色宝石が額の中心に埋め籠められている真っ白な、おそらく白金でできている兜を拾い上げる。
ジェイスに投げ渡された兜の中心の宝石を見つめ、セルシアが口を開いた。

「これはエメラルドかしら、ふーん・・・・・・貰っておきましょうか」
「さすがセルシア、がめついな」

試しにジェイスに被せようとしたセルシアの手の勢いが遠慮なく強まった。


Hunting result
『ベリルアメット』