Ancient memory 第八部 X X 山を登り続けていくとどこからか宴の声が聞こえる。 陽気で楽しくなってくる景気のいい声だが、不思議と寒気を感じるような声だった。 何をしているのだろうと声のする方へ歩き出す。 急だった坂がそこで途切れ、一面が平らに広がっている。 ところどころに家のような建造物が建っているが、スオミのように普通の形ではなかった。 「あら、あなたカレワラの民じゃないわね」 突然話しかけられる、黒いローブを着て陰気な感じがする女性だったが顔立ちは綺麗だった。 黒い羽がついた、僅かに魔力を感じる帽子も被っている。 少し戸惑いながらも返事をする。 「え、えぇ。旅をしていて・・・ここはカレワラというのですか?」 「あら知らない?3、4年前にルアスの王が暗殺されかけたって事件」 「いえ・・・辺境の孤児院にいたもので・・・そんなに有名なのですか?」 「有名も何も・・・ルアス、ミルレス、スオミの3都市とここの魔女が戦争を起こして。そりゃもう大変だったのよ」 「はぁ・・・ところで、この宴。何かあったんですか?」 「そろそろあの王を本当に殺すための景気付けよ。命が惜しかったら数ヶ月ルアスには近づかない方がいいわよ」 明るい顔で恐ろしいことを平気で抜かす。 会話は相手方から勝手に終わり、セルシアは一人になってしまった。 とりあえず中央広場の宴の様子を覘くことにする。 そこには奇妙としか言えない光景が広がっていた。 中央に置かれた鍋のようなモノから沸きあがる蒸気、 蒸気の中に微かに見える人のような手。 その周りを囲んで何かを祈る魔女たち。 風向きが変わり、小さく聞こえる魔女たちの会話。 「亡きキルケ様のご遺志を継ぎ、次の満月の晩ルアスへ攻め込む」 「住民は?」 「・・・」 途中、風向きがまた変わり会話が聞こえなくなる。 しかしさきほどの魔女の話は本当だった。 それを知って今のセルシアは放っておくわけにはいかなかった。 思わず、足が動く。 「待って!」 「・・・誰だ?」 中央へ走り、リーダー格のように見える魔女の前に立つ。 こちらを細めで睨み付けてくる女性はやはり綺麗で、しかし唇は青く健康的ではなかった。 目の奥から射抜かれてしまいような冷気と殺気にセルシアは少し身震いする。 短い沈黙のあと放たれた冷たい言葉。 「ただの旅の者です。勝手な意見かもしれないけど・・・また争いを巻き起こすのはやめてください」 「死にたくないのならルアスへは近づくな。私は王を消すことが目的なのだ」 「だったら、話し合って・・・」 「そんなことはとうにした。しかし彼奴めはこちらの意見も要望も、何も聞き入れてはくれなかった!」 「・・・何を頼んだのですか?」 16年前 ルアスへスオミダンジョン周辺のモンスターが襲撃した。 そのモンスターたちは不思議と斬撃が効かず、魔力を使って跡形も無く消さなくてはいけなかった。 スオミの魔術師たちはルアスへ入らないようにと、先に気づき善戦を繰り広げていたのだが 自分を守ってくれる戦士たちがいなく・・・ 一人は魔力が尽き 一人は敵の剣に倒れ そしてまた一人と、スオミの熟練した魔術師はほとんど倒れていってしまった。 残ったモンスターの数も少数だったが斬撃しか攻撃方法がほとんどないルアスにはそれだけで大打撃を受けた。 そこへ助けに入ったのが、ルアスにしては意外にもカレワラの魔女たちだったのだ。 そしてキルケが見返りとして要求したこと ルアス近辺に魔女たちの住まいを用意してほしいと。 軽い、頼みのつもりだった。 だが王は拒んだ、気味が悪い。と一言だけで。 しかも王の言葉と表向きではなっているが、実際はキルケの暗殺計画を阻止したトールの偏見であった。 ルアスにも近くに魔法を使える者がいられる、と良い面もあったのだがそれすら蹴り、助けた礼もロクにせず魔女たちは追い返された。 「カレワラは山の上、環境も女手だけでは厳しい。何より子孫を残すことが難しかった」 「くだらない差別でカレワラの魔女は迫害されてきたのね・・・」 「ただ、私たちは平等な扱いを受けたかっただけなのに・・・」 「だからって、殺すのは少し飛びすぎなんじゃない?」 「黙れ!古来から手を伸ばせば届く場所にあるモノを・・・幾月待ったと思っている!幾年耐えたと思っている!」 祈りを捧げていた魔女たちが戸惑う。 見知らぬ旅の女と自分たちの頭が言い合っている光景に手を出すことができなかった。 そこへ近づく、一人の黒い羽帽子を被った魔女。 「メデューサ、そこまででいい?」 「ステンノ様・・・で、ですが!」 「いいわね?」 羽帽子を深く被っていて顔がよく見えないが近くにいた『メデューサ』と呼ばれた女は その覗き込んだ顔を見て一瞬で黙る。 「あなた、さっき言ったじゃないの。危ないって」 「だけど・・・放ってはおけません。モンスターはただ人を襲うことだけを考えています・・・ だけど人は人を理解するのに争いを起こすことしかできないのですか?」 「人は変われるかしらね?」 「変われますよ。時間はかかるかもしれませんが・・・必ず」 「だったら変えてみせてもらおうかしら」 「・・・?」 「王の暗殺は時間を置いてあげる、だけど時間が経っても王が変わらなかったときは・・・」 「ステンノ様!」 「お黙りなさい。・・・変わらなかったときは、やっぱり王は殺す。あなたも私たちとの約束を守れなかったとして・・・」 「・・・わかりました。最後に、一つ聞きたいのですが」 「何かしら?」 「古代の武具をご存知ですか?」 「古代の武具・・・知らないということにしておくわ。魔女は気まぐれ、そのうち知っているかもしれないわね」 魔女の指が空間を切り裂いた、向こう側にルアスが見える。 ウィザードゲートは確か一度行った場所でないと行けなかったはず。 この魔女は・・・あの魔女戦争のとき、参加していたのだろうか? 悩んでもわかることではない。 ルアスの町並みへと、空間を越えて踏み込む。 何故か、カレワラの地面の方が暖かく感じた・・・ Hunting result 変わる、変われる。 『時間』