Ancient memory 第八部 W W 「ナヌス・・・そうか、ルアスのモンスターが斬れなかった原因・・・」 「あれはナヌスの力で変化したヤツらだったわけか」 「俺ッチは気づいたんスよ、ナヌスの力に。モンスターと人間との間に起きる争いの原因」 「・・・争い・・・ね、私も見てきたわ」 森の中を駆けていた。 山の中を駆けていた。 止めたくない足をひたすら動かし駆けていた。 けれど永遠なんてものは無かった。 突然巨大な短剣が眼前に飛んでくる。 とっさに地面へ倒れこみ直撃は避けたが額に傷がつき、目に血が入ってしまった。 真っ赤に染まる世界の中で対峙したものは[マーダーパンプキン] 殺戮を快楽とし、数え切れないほどの人間を葬ってきたモンスターだ。 それに使った短剣は真紅に、寧ろ綺麗とも言えるほど紅に染まっていた。 「・・・」 無言で短剣を抜く、相手が殺そうとしているのにこちらが無防備では話にならない。 右手に愛用の『メデンハプン』 左手にいつかの仲間から譲り受けた『カチダガー』を握り締め見つめ合う。 容赦なく相手の短剣がセルシアの胸へと飛び込んできた。 2本の剣を交差し、攻撃を受け止めるが信じられないことが起きた。 カチダガーが砕けたのだ。 マーダーパンプキンはそれが当然と言わんばかりに血の鋼を振り回す。 牽制しながらカチダガーの残骸を拾い上げた瞬間、それが光りだした。 腰に縛り付けた、あの時の巻物と一緒に。 光は砕けた刀身を包み込み、そして離れない。 光が一層強くなり弾けたかと思うと、短剣は元通り・・・いや、前以上の鋭さと強さを持っていた。 何が起きたのかはわからない。 だけど一つだけわかる。 勝てる、やろう。 再び血の鋼が飛び込む、2本とも砕いてやろうというようにさっきと同じ軌道を描いている。 交差し、受け止める。 金属音が弾けた。 血の鋼が胸を貫く軌道は完成しなかった。予測しない方向へ弾き飛ばされ、マーダーパンプキンは戸惑う。 今まで、この短剣で貫けなかった鎧は無いのに。 今まで、この短剣で砕けなかった剣は無いのに。 自信が崩れ、次に出来上がった感情は・・・ 風が吹きぬけたように感じた。 マーダーパンプキンは目を見開いたまま崩れ落ちる。 カボチャが砕け、中身が飛び散る。グロテクスな光景を後ろ目に駆け出した。 血の鋼が砂のように消え去っていく、永遠かと思われるほど長い牢獄から解放された。 自分は今までこの鋼に幾多もの人間を「死」に追いやり、血の牢獄へ閉じ込めた。 それが当然で、それが快楽でそれが自分には不可欠だった。 一番身近にあったけれど一番知らなかったのかもしれない。 恐怖に塗れて、マーダーパンプキンは死を感じた。 血を隠すかのように雪が降り出す。 雪は嫌な思い出、見たくないモノ全てを覆い隠す。 だけど時々、見なくてはいけないモノも覆い隠してしまったのだろう。 彼女の短剣から滴り落ちる血は、決して刃に残ることはなかった・・・ Hunting result 『カチハプン』