Ancient memory 第八部 Y


Y

「最後は、俺たちかな?」
「2人は一緒に旅してたんスか?」
「ああ、まぁ旅というか・・・ルケシオンにずっといたんだけどな」



ドレイクと再開を果たし、しばらくルケシオンに滞在していた頃・・・

「なぁ、お前たちデムピアスって知ってるか?」

突然、ドレイクが真剣な顔で2人に聞きなれない単語を聞いてきた。
勿論知るはずもない2人は質問を質問で返す。

「知らないな・・・何かヤバいのか?」
「まぁ話すと長くなるんだけどよ・・・」


古い話、もう一年以上前になるだろうか。
セルシア、ジェイス、ラスアの三人でキャメル船長を倒したときのこと。
何故船長は不死の体になっていたのか、何故その時海賊たちはいなかったのか。

日々変わらない盗みと争い、だけれど賑やかで仲間がいるルケシオン。
そんな日常を成り立てているのは海賊たちの『仕事』だった。
仕事とは強奪、他の船から金品を奪ってくるのだ。
しかしその仕事ができなくなる・・・

ルケシオンの海岸に謎の渦が発生した。
とてつもなく大きく、消えることのない巨大な渦。
その渦を通ろうとした船は中心まで引きずり込まれ、二度と出てくることはなかったという。

ルケシオンの住民たちはそれを死の渦『レピオン』と名づけた。


仕事へ行けなくなり、海賊たちも生計を立てることができなくなった。
そして起きるのはルケシオン内での過激な奪い合い。
それは段々と激しくなり、そして強い者だけが上にのぼり詰めた。

その頂点に立った、強奪を繰り返す男『デムピアス』
デムピアスの動きは日々過激になっていった。

今までルケシオンが殺人を起こしていなかったのは
一番大きな海賊の頭、キャメル船長が殺しを望まなかったからだ。
しかしデムピアスは今までの暗黙のルールを破ってしまった。
残り少ない金と食物を弱者から奪い、殺す。
キャメル船長はデムピアスに対抗したが力が違いすぎた。
いつの間にか、デムピアスは多くの仲間を作り、ルケシオンを支配下に置いてしまっていたのだ。

そして、キャメル船長はミミックを開けてしまった。
精神的にも生きることが辛くなってしまったのだろう、意識が戻ることは無かった。
仲間想いだった船長は海賊たちに手厚く葬られたが、何故か・・・
戻ってきてしまった。死んでいるのに生きている。
恨みだけが残り仲間を斬りつけてしまう。
海賊たちは逃げるしかなかった。かつての船長を倒すことはできなかった。


「レピオンだけじゃなく海流も不規則になってるって聞いたが」
「全部ヤツだ。馬鹿な砲弾撃ちやがって、海床が壊れちまった。
今じゃ、デムピアスが『海賊王』だなんて呼ばれる始末だしな・・・」
「なんとかそのデムピアスを倒すことはできないのか?」
「恐らく、無理だろうな。ヤツは今まで表に出てこなかったのが不思議なほど強い」
「じゃあ・・・今の状況を打破するには?」
「俺たち海賊は『レピオンホント』を作ったんだ。死の渦に対抗できるような艦体を作って仕事へ行く」
「それをまた略奪されるだけだろう。根元を叩かないといつまでも繰り返すだけだぞ」
「わかってる、だから頼みがあるんだ」
「大方『レピオンホント』に入れってんだろ?こころよーく受けてやるよ」

立ち上がって頼みの内容を言おうとしたドレイクが面食らった顔になる。
今度はジェイスが立ち、条件を付ける。

「ただし、俺たちは仕事には参加しない。デムピアス討伐に参加するだけでそれまでは海賊だけでやってくれ」
「わかってるさ、王子様が罪の無い者から略奪だなんてできねぇからな」
「お前知ってたのか・・・」
「一目見ただけでわかるっつの。ルケシオンは海が近いからな、ウワサがすぐ流れくる。
・・・ウワサと言えばミルレスにルアス騎士団が攻め込むとか言ってたな」
「・・・何だって?」
「ミルレスってメント文明じゃデカイ都市だったらしくてよ、古代の武具がまだ残ってるかもしれないってウワサで・・・」
「行くぞガイ、絶対に止めさせなきゃヤバイぜ」

話の途中から眠りこけていたガイを乱暴に起こし、砂浜に置いた鞄を拾い上げる。
中から取り出したのはスオミリンク。
彼はルアス王宮から3つのリンクを盗んできた。
ミルレス、ルアス、スオミ。
ルアスへセルシアたちより先回りするために一つ
ミルレスへ逃げるために一つ
そして最後に・・・
仲間と再会を果たすために一つ、使う。



「へぇ、船長って生前はいい人だったのね」
「随分信じられない話ッスね・・・」

確かに船長は大変手を焼いた。
ジェイスに至っては手を焼くどころではなかった。

「そこで、だ。ミルレスのウワサは嘘にしても本当にしても行く価値はありそうだ」
「メント文明の頃大都市だったっていうのは本当ですしねぇ」
「・・・ジェイス、一つ聞きたいんだけど」
「何だ?」
「騎士団を統率している人物は、誰?」
「・・・トールだ。親父の右腕でもあり、かなりの権力者でもあるぜ」
「キルケの王暗殺計画を阻止したのは?」
「トールだな・・・」
「魔女たちの頼みを蹴ったのも・・・」
「トール・・・恐らく今回のミルレスのウワサもトールが指揮しているんだろうな」
「・・・早く行きましょ、とてもつもない被害が出そう」

セルシアの顔から血の気が無くなっていく。
しかし手は強く握られていた。
唇も、一滴血が流れるほどに食いしばっていた。

「言っておきますけど、あたしは残りませんからねっ?」
「はいはい、無理にでもついて来そうだしね」
「そんじゃぁ出発するッスよー」

嫌な予感がした。
この国は本当に王が動かしているのだろうか?
嫌な予感がした・・・


Hunting result
レピオンホントの
『多くの仲間』


第八部
完