Ancient memory 第七部 V


V


また、始まる。


ミルレスの町が炎に包まれている。
必死に戦う大柄な男と、援護する聖職者の女。
そして庇われている金髪の・・・まだ言葉も難しい赤子。

敵の矢に当たり、また一人。永遠に耳に残る叫び声を上げて倒れた。
ミルレスを襲撃しているのはノカンの集団。
一匹だけではそれほど脅威ではないが、特徴が『群れる』こと。
今までに無い、数え切れない数でノカンたちはミルレスを襲ってきた。
何かに・・・とりつかれたかのように、目を血走らせながら。

ミルレスの町にも戦う者はいた、己の肉体を鍛えぬく修道士。
そして町の中で一番強かったのが彼、テイルを庇う男。
今のテイルにははっきりと思い出せない顔、声、姿。
だけどわかる。
自分の父親が自分を守ってくれている。大地のような大きな体の暖かさは覚えている。
もう一人思い出せない顔、声、姿。
自分の母親が自分を守ってくれている。風のように髪を撫でてくれる手の優しさを覚えている。


激戦は続く、そこへ彷徨ってきた茶髪の8歳ほどの少年。
ミルレスの状況を知らずに来たのだろう、目の前の光景に動けなくなっていた。
しかし様子がおかしい、絶望的な状況の前に立っていても目は段々と光を取り戻してきている。
もう、絶望は見てきたかのように目は始めから死んでいた。
戦うテイルの父の姿に彼は感動と憧れを抱いていた。
だか完全に無防備、当然狙うノカンの吹き矢。
テイルの父は、それを無視できなかった。

背中に毒を塗られた吹き矢が雨のように刺さる。
しかし当たったのは男ではない、テイルの母であった。
吐く血に顔が真っ赤に染まる。
腕の中に倒れこむ妻の姿に目が焼け焦げる。
体中のオーラが、暴走し始める・・・


全てのノカンたちは倒せなかった。
だが、逃げていった。
ミルレスの町の中心に、大きな穴が開いていた・・・


両親を失くしたテイルは教会に預けられることになった。
それから16年、彼女は戦いと無縁でいた。
それが両親の願いだったのかもしれない、それが彼女の夢だったのかもしれない。
だが平和な日々の中に、ルアスから兵を送るように命令が来た。
そして行ってしまった3人の友人たち。



「あたしが行けばよかったのに、みんなを行かせちゃった・・・
人を助けるのが使命で夢だったのに、あたしは逃げていた・・・」

砂浜に寝かされたテイルが呟く。
目は星を見ている、何かを見ている。
そして、涙が流れている。

「また大事な人を失っちゃうところだったの、みんなが死んじゃうかもしれないのに
あたしはただ見ていた。近いのに遠くから、遠いところにいるフリをして」

ノーディが片足を折り、俯いて座っていた。
ユウがテイルの横で正座をし、彼女の胸に顔を押し付けていた。
マモが大きな手で目元を覆っていた。

それぞれ、過去に両親を失っていた。
もう大事な人は失いたくなかった。
それぞれの目は見えなかったが、鼻を啜る音だけが砂浜に響いた・・・


Hunting result
『あの涙』