Ancient memory 第六部 U


U

大きな緑色の体を持ち、人の顔によく似たモンスター、
[プロブ]の額に鞭が強かに打ち据えられた。
急所への強烈な一撃に後ろに宙返りしそうなほどの勢いで倒れ、プロブは気絶した。

「なぁ、前々から思ってたんだけどよ」
「どしたの?のーちゃん」
「最近モンスターの動きが活発っていうか凶暴っていうか・・・」

ノーディの言うとおりだった、ここのところモンスターの動きが活発になり
ルアス王宮がミルレスに人手を求めるのもそのせいであったからだ。
幾度となく街中にモンスターが入ったという噂が森を越えてミルレスにまで流れていた。

「ま、さっさと王子さん見つけて帰ろうぜ」
「そうだと嬉しいんだがな・・・っと待った」

マモが足元の[プロド]を蹴飛ばし、そしてその先の敵に気がつき2人を止めた。
その気づいた敵はぼろぼろの布を纏い、ドクロの兜を被り、さらにサカナの頭の骨を杖の先端につけた
奇妙な姿をしたモンスターだった。

「あれは・・・[ネクロケスタ]?なんでこんな町の近くに・・・」
「ちょっと待て、ヤツの様子がおかしい」

足元に転がってきたプロドを見つけたネクロケスタはサカナの歯を器用に使い、
プロドを捕まえそのまま口の中に放り込んでしまった。

「ぅゎ・・・」
「ユウ、見るな」
「ワシが片付ける、さがってろ」

ユウの目を手で覆ったノーディの目の先には口の周りを真っ赤にしたネクロケスタが
満足気にニタリと口を歪ませている姿だった。

背中に挿していた杖を抜いたマモはネクロケスタの前に躍り出る。
ネクロケスタが敵の姿を確認し、攻撃を始める前にマモは目にも止まらない速さで杖で十字を切った。
左から右へ、上から下へ。
宙に現れた十字架の交点に手をかざすと十字は眩く煌いた。
光は聖なる刃と化し、ネクロケスタを貫く。
大声をあげ、ネクロケスタは4つに切り裂かれた。

「ユー、辛いだろうが来るんだ」
「うん・・・」

無残な姿となったネクロケスタの前でひざまずき、2人はまた十字を切る。
その行為の意味を知っているのだろう、ノーディは何も言わなかった。
だが、何もしなかった。


祈りを終えた2人を先に行かせ、ノーディは転がっていたネクロケスタの杖を拾い上げた。
サカナの骨の中から古めかしい本が出てきたのに気づき、それを手にとりパラパラと捲ってみた。
中は不思議な文字が長々と綴られており、意味もまったくわからなかった。
拾うとき、少し電気のような痛みを感じたが気のせいだろうと2人を追いかけ始める。


「何してたの?その本は?」
「いや、さっき拾ったんだけどさ・・・まぁ行こう」

適当にはぐらかして隣を歩き始める。
いくら敵とはいえさっきの行動は多分、死者を冒涜した行為だ。
マモはともかくユウに怒られるだろうと黙っていた。
しかしノーディはその考えに納得できなかった。

敵は倒す、倒すには殺す。
ノーディの思う当たり前の行為がミルレスの住人には偏見であり、刃物を持つことも禁じられていた。
ミルレスに生まれたが、聖職者ではなく盗賊の道を歩んだノーディは今も刃物はあまり持たない。
ノーディはミルレスで奇異な存在になっていたが決してこうは言わなかった
『俺は盗賊だから』
彼はミルレスの住人を否定しない、自分と彼らは違う存在と割り切らない。
自分の考えを貫いて聖職者の道をかき消すのは違うと思ったから。

「気にするな、どちらも間違った道じゃない」
「まもちゃん何言ってるの?」
「・・・お見通しかよ、抜け目ねぇな」

ネクロケスタが切り裂かれた場所には杖が墓標のように突き立っていた。

Hunting result
かつての神官
『不思議な本』