Ancient memory 第六部 T


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冷たい風に巻き込まれる木の葉が飛び上がった。
光はナイフのような形をした月の明かりだけ、小さいが鋭い光を出していた。

ミルレスの橋の上、途中で大きく広がっている場所にある木のベンチに一人の青年が座っていた。
マフラーを口周りにまで巻き、体をマントで寒そうに覆っている。
規則的に吐く息は白い。

「あ、いたいたー」

突然かけられた言葉に青年の漆黒の髪が揺れる。
見上げた先には青年と同じ歳くらいの女性が立っていた。
こちらも手袋をつけ、厚い白い服を着込んでいた。

「おはよーのーちゃん」
「ユウか、おはよう」
「まもちゃんはまだ来てないの?」
「まもっさんはいないな、にしても寒い・・・」

ユウと呼ばれた女性は青年のベンチの隣に座りこむ。
長い銀髪を両手で後ろにかき上げ、言葉を続ける。

「もう春だっていうのにね、でもこんな時期に王子が失踪だなんて・・・」
「人騒がせな王子だな。ん、あれ。まもっさんじゃねぇ?」
「暗くて見えないよ・・・のーちゃん目よすぎ」

町へ続く方への橋を見て青年が誰かに気づく。
ユウも同じく目をやるが月明かりだけではほとんど見えず戸惑っていた。

「よお、逢い引きの邪魔したか?」
「黙れエロ神官」

ユウと似た服のポケットに左手を突っ込み、右手でフードを下ろす。
フードの下は濃い緑色の髪がなびいていた。
ベンチの隣に立ち、突っ込んでいた左手を出す。
その手には煙草が握られていた。

「おはよーまもちゃん」
「おう、おはよう。それよりディス、火ないか?」
「あるか、てか神官がタバコなんて吸ってるんじゃねぇよ」
「ワシは神なんざ信じてないんでね」

火をつけるのを諦め、またポケットに左手を入れる。

「さてと、準備はいいか?」
「あたしはいいよ」
「ワシも大丈夫だ」
「んじゃ最後にちょっとイタズラして出発するか」
「イタズラ?」

立ち上がった青年は腰に挿していた短剣を抜き、ベンチに文字を素早く彫った。

「Nody Yu Mamo・・・か」
「ノーディという俺はここにいた。その証だ」
「ユウというあたしもここにいた」
「マモってワシもここにいた」
「んじゃ、出発すっか!」





「王子が失踪しただと?」
「その通りです、そして王子を探索するために王宮から兵士が各地へ派遣されて・・・」
「王宮の守りが薄いと、そして人手が足りなくてミルレスにも傭兵を集めに来たのか」
「聖職者が多いというのはわかっています、ですが何ゆえ緊急でして・・・」
「治療班3名だけと言ってもな・・・まぁ、なんとか出しておくと王に伝えておけ」

ミルレスの外れにある教会の礼拝堂に一人の兵とマモが話しをしていた。
王宮守備のための徴兵、戦える者がいないミルレスには3名といえど困る命令である。

「あいつらしかいないか・・・」

一言呟いて大きな教会の扉を開けた。


「はぁ?俺とユウが王宮へ?」
「んむ、何でも人がいないらしくてな」
「だからって何であたしたちが・・・」
「ワシの独断だ」
「はぁ・・・何でこの神父は・・・で、3人目は?」
「そりゃ勿論ワシしかいないだろう」

ノーディのため息は一度では済まなかった。
マモの長い説得により結局3人がミルレスの兵として出ることになった。
他のミルレスの人も3人の代わりに行くと言ってくれず、ノーディもユウも諦め半分で承諾した。

「出発はいつなんだ?」
「明日の明朝だ、というか冬だから暗い間に出る予定だな」
「・・・明日ぁ!?」
「明日だ、町の人たちにあいさつ済ましとけ。そんじゃな」

煙草を咥え、後ろ手を振りながら家を出る。

「あっのバカ神父・・・!」
「まぁのーちゃん、しょうがないしあいさつしにいこー」
「気楽だなぁ・・・まぁテイルのところからでも行くか」




冷たい風が吹く、木の葉が舞う。
空はまだ暗い、冬だから仕方ないだろう。
いつも3人で話しをし、笑いあったベンチの上に座り込む。

「・・・・・・寒ぃな・・・」
「あ、いたいたー」

ナイフのような月、小さいが鋭い光。
青年の決意を表した目も、今では鋭く光っていた。

Hunting result
ナイフのように
『決意』