Ancient memory 第四部 U


U

空間がルケシオンと繋がる、もう見慣れたウィザードゲートだ。

さっそくボートに乗って例の小島へ渡ろうとしたが
突然麦藁帽子を被り、ギターを煩く鳴らす男が現れ止めてきた。
何やら最近現れた海賊たちの砲弾で、海底の岩礁が崩れて流れが不規則になっているらしい。

「どうしますかぁ?」
「俺ッチの魔法で風を引き起こして船を動かすこともできるんスけど・・・」
「それでも遠いな、ラスアに負担がかかりすぎる。オレはやめておいた方がいいと思うな」
「それならなるべく近い陸からそうしましょ、あそこならいいんじゃないかしら?」

セルシアが指差した方向は小島になかなか近い、地図でいう半島みたいな形をした場所だ。
そこへもかなりの距離を歩くがこの際仕方が無いだろう。

「んじゃそこまで移動だな、道中は・・・危険か?」

ジェイスが先ほどのギター男に尋ねる。
予想していたとおりモンスターが住み着いているらしい。

「仕方ないってことが多すぎるわよね・・・」

ため息をつきながら5人は歩き出した。



「カニ・・・か?」
「カニ・・・ッスよね?」
「カニ・・・ですよねぇ?」
「カニ・・・だよな?」
「カニ・・・よね?」

答えられる者はいなかった。
5人の前に立ちふさがったのは見る限りカニ。
しかし

「デカいだろ。なぁ」
「何食ったらこんなデカくなるんスかねぇ」

縦に見てジェイス3人分、横に見て手を繋いだ人が5人分。

「どうしますかぁ?」
「戦うしかないだろう」

砂浜は狭く、右は海、左は崖。
倒さなくては通してくれないようだ。

「来るわよ」

カニがハサミを振り上げ、一番近くにいたジェイスに向かって振り下ろす。
受け止められるスピードではないので後ろに飛びのいてそれをかわす。
ハサミが突き刺さった砂浜は地震並の揺れを引き起こした。

「・・・よし、頼んだラスア」
「えぇっ、マジッスか・・・今なら・・・できるかな・・・・クロスモノボルト!」

カニの脳天を指差して唱える。
ラスアには懐かしい言葉だった、船長で偶然放った落雷魔法「クロスモノボルト」
モノボルトより強力な雷が、しかも数を増やして敵を打ちのめす魔法だ。
あのときはたまたま放てていただけであれから出そうとして出せたことはない。

そして・・・砂浜に雨のように雷が降り注いだ。
雷はカニの全身を鞭のように打ちのめし、甲殻を破壊していく。

「よっし成功っ!って・・・」

まだカニは動いた、それどころか怒りが頂点に達しているようだ。
ハサミを広げラスアの左右を挟み込むような場所へ振り下ろす。
そして破壊だけしか考えない動きでハサミを閉じる。
しかしハサミの刃がかみ合うことはなかった。

「セーフ・・・今だセルシア!」
「任せなさい」

素早く槍をハサミの間に突き立てて閉じさせなくする。
そこへ風のようにセルシアが走り込み黒い爆弾を置いていった。

「離れて!」
「おう!」

ジェイスがラスアを担いで飛び退く、直後大爆発が起こりハサミが根元から吹き飛んだ。
カニが痛みで残った腕を滅茶苦茶に振り回す、
多大な魔力を使い、目眩を感じていて避けきれなかったラスアの胸部へ腕が叩き込まれる。

「っぐ・・・」
「っち!余計なことしやがって!」
「下がれジェイス、オレに任せろ」

吹き飛ばされたラスアを受け止め、前線から外した場所へ移動させ
いきり立って飛び出しそうなジェイスを腕で制してガイが前に出る。
硬く握ったその拳には青いオーラが浮かんでいた。

「頭がガラ空きだ!」

拳を頭めがけて突き出す、物理的な間合いでは届くどころか気づかないでもあろうその場所から
青いオーラが尾を引いて放たれた。
オーラは速度を増し、頭にぶつかると爆発を起こした。
突然の出来事にカニは対応しきれず、後ろに倒れる。

それが勝負の終わりだった。

「あれ・・・?起き上がらねぇ」
「カメみたいなモンでしょ」
「くだらんな・・・」

カニは後ろに倒れると手足をバタバタと動かしはじめた。
しかし起き上がることは無いだろう、背中の甲羅が突き出ていて腕が砂浜に届きそうにない。

「ラスアさん大丈夫ですかぁ?」
「あいたたたた・・・」
「今回復します・・・リカバリ」

安全を確認したテイルがラスアの元へ駆けつけた。
暖かい光を纏った手がラスアの胸部に触れる。

「肋骨が折れてるみたいです、少し待っててくださいねぇ」
「スンマセン・・・」

普段はとぼけているが聖職者としての腕は素晴らしいものなのだろう。
折れた肋骨もすぐに治るな、とセルシアは思った。
そしてヘマをしたかのように見えるラスアも嬉しそうな顔で拳を掴んでいた。
あの時、船長に負けてしまった自分を越えられたことが嬉しいのだろう。
目標の場所へは半分程度まで来た。
しかし海は明かりが無いと動けないので日が完全に沈む前に野宿をすることにした。
その日の夕食にカニは出なかったが。

Hunting result
過去の自分を超えた証拠
『クロスモノボルト』