Ancient memory 第二部 X


X

やっと5階まで降りてきた3人はいきなり火の玉を投げつけられた。

「のあっ!」

当たったのはやはりジェイス、服の右肩が軽く燃えた。
火の玉はさほど大きくなく、それにジェイスも鈍感ではないので致命傷にはならなかった。

「まさかあの[クリングル]の生息地がここだなんて・・・」

ラスアが緊張した面で敵を見据える。
ヒトのような顔を持ち、背中には悪魔のような羽と尾。
その手は灼熱の業火が纏っており、触れたモノ全てを焼き尽くしてしまいそうな手だった。

「どういうモンスターなの?」
「奴は・・・地獄のモンスターッス、少しでも油断すると・・・」

突如爆音と共に地面が揺れた。
クリングルの灼熱の魔手が地面に突き立っている。

「マジで死にますよ!」
「逃げろセルシア!ラスア!」

ジェイスの雄叫びで我に帰る。
彼はすでにクリングルの群れに囲まれていた。

「ジェイスは!」
「後から追いつく!今は手前のことだけ考えてろ!!」
「死ぬなよ兄貴っ!」

ラスアが雷速の集中でクリングル全てに赤い剣を突き立てた。
赤い剣が刺さったクリングルたちは少し動きが鈍くなり、やる気もなさそうに見える。
そして手から風を巻き起こし、自分の背中の方に放った。
ウインドバインを応用し、セルシアのブリズウィクに似せたものだ。

「ラスア!前っ!」

セルシアの指さす方向にもクリングルはいた。
その数4体。

「ちぃっ!メガスプレッドサンド!!」

ラスアの手から数え切れないほどの小石と塵が放たれる。
威力はさほどないが成る程、これなら目くらましになる。
気圧されたクリングルたちの隙をついて
横をすり抜けまた走り続けた。



「複数と戦って勝てる相手じゃないッス、奴等は今ピリピリしてますしね・・・」
「怒ってる?何で?」
「モンスター階級社会の幻想ッス」

もう出口付近まで来た。
ジェイスを置いて降りるわけにはいかないので待つことにする。

「モンスターにも階級があるのね・・・」
「奴等によく似たモンスターがいるんスよ、[アズモ]って言って・・・」

クリングルが出てくる、一匹しかいない。
私はモンスターの手足と喉元を切りつける。
動けなくすればいい、そんな考えだった。

「ソイツが・・・アズモッス。地獄の下級モンスター、クリングルたちの・・・」
「そう、我々は奴隷だ・・・」

手足を切りつけられ地面に倒れたクリングル・・・に似たアズモが呟く。

「モンスター階級社会の鉄則は『弱肉強食』、強い者が偉くなれるんス」
「我々アズモ種はクリングル達との戦いに敗れ・・・今も奴隷生活を強いられている」

虫の息でアズモは続ける。
私は喉を切り裂いた、命はもう・・・永くない。

「弱い我等は奴等の弱点を探ろうと・・・この集落に入り込んだ・・・」
「クリングル達の機関内の情報を盗もうと・・・」

ラスアが悲しげな面でアズモの代わりに話を続ける。

「この・・・小箱に入れて・・・我等の郷へ帰ろ・・・うとしたが・・・お・・前たちが・・・」

声も出ない、そして大規模な計画に圧倒される。
アズモが一つ大きく息を吸った。
その息は・・・吐かれなかった。

「ジェイスを・・・待ちましょう・・・」

返事は来なかった。

Hunting result
『アズモボックス』