Ancient memory 第二部 Y


Y

悲しいモンスターたちの社会を知った3人は重い足取りで、しかしそれでもダンジョンを進む。
潜り始めてから何時間経ったろう、閉鎖された空間で感覚が鈍る。
突如、誰かの腹の虫が鳴き始めた。

「・・・・・・えーと・・・」
「た、確かに腹減ったよなぁ・・・」
「そそっ、そうッスよね。ちょっと軽く食事でも・・・」

女性に対する気遣いなのだろう、聞かれてもいないのに同意する。


湿った地面の上に周りに置いてあった木炭を乗せ、燃やす。
そこで持ってきた食料を軽く食べ始めた。

「それじゃあ・・・その箱がスッゲェ重要なモノなんだな」

ジェイスがあまり理解できてなかったようで肉を食いちぎりながら聞く。

「そうね、クリングルたちにとってはかなりの痛手じゃないかしら」
「クリングルを殺さずとも・・・サラセンにアズモたちを匿うことは無理なんスかね」
「ガディのオッさんに頼んでみっか」
「誰?そのガディ、って人」
「いや、人じゃあねぇな。サラセンの武器屋のオッさんだよ」

ジェイスがサラセンについたあと意気投合していたあの武器屋の主人だ。
確かにガディはカプリコ族であり人ではない、どこか面白おかしくジェイスは微笑する。

「ああ見えても意外とサラセンの中じゃ信頼されてるみたいだしな」
「ところで・・・サラセンは階級社会じゃないの?」
「社会はまるで人間のようなんスよ、軍事力が権力の階級社会。権力も何もない平等社会
サラセンは人間からモンスターが奪った土地で、そのときは全員が一致団結していたそうッスよ」
「じゃあ心配は無さそうね」
「にしても・・・よく知ってるなラスア」
「だーから俺ッチはスオミの・・・」
「あー、わかったわかった。お前は賢くて凄いヤツだよ」

ラスアが不満そうに頬を膨らませる。
軽食を取りながら3人はしばし黙り込む。

ジェイスは知っていた。
サラセンが奪われたときにそこにいた人間は全滅したこと
奪われた日は稀に見る大嵐で目撃者は一人もいなかったこと
そしてサラセンに関する資料はルアス王宮内資料館にしか残っていないこと

ジェイスは疑い始めていた。




「でっけぇー手・・・」

引っくり返ったその手は中指を立ててきた。
そして力なく指が広がりきる。

「なんか・・・すっごいムカツクわね・・・これは何ていうモンスターなの?」

セルシアが不機嫌な顔でその[手]を睨みつける。

「この無駄にデカイ手は[マニアック]ってモンスターッスよ」
「どこがマニアなんだか知らないけどホントデカイな・・・」

デカイデカイ言われているようにマニアックは本当に大きかった。
ジェイスが寝転んで同じくらい。というくらいの大きさだ。

「特に特徴は無いんスけどね」
「この最後の指が特徴無しと言うのは聞き捨てならないような・・・」
「あ、あそこにいるのが[スター]ッスよ」
「え?」

ラスアが指差した方には埃だらけのコートが落ちていた。

「何だこれ?キッタねぇー・・・」

ジェイスが摘むように持ち上げたそれは
いきなり勝手に浮き出し暴れだした。

「くっさ!汚いのに暴れるなコイツ!」

ジェイスがコートの襟首を掴んで投げ飛ばす。
重さなどは無い筈なのに綺麗に放物線を描き、コートは飛んでいった。

「まったく・・・マナーがなってないわね・・・ん?」

別に潔癖症ではないのだがイライラしながら足元に落ちていたモノを拾う。
美しく反り返った、不思議な感じがする短剣だ。

「見たこと無い短剣ッスねぇ・・・」
「代物であることは間違いないだろ、ちょっと貸してくれないか?」

刃の部分を持ち手渡そうとする、だが

「いてぇっ!?」

ジェイスが触れようとした瞬間青い電撃みたいなモノが一瞬光った。
それはまるで、ジェイスを拒絶するかのように明らかに敵意を持った光りだった。

「俺が近づいてもヤバイみたいッスね・・・」

ラスアの指が触れるか触れないかのところに近づけるだけで青く光る。

「うーむ・・・セルシアが平気なのは・・・?」
「さぁ・・・なんでかし・・・!」

突如頭に膨大な量の情報が流れ込んでくる。
人間の脳では処理しきる量を
それを遥かに上回る圧倒的な情報が脳だけでなく体中を駆け巡った。

耐え切れず、倒れる。

「セルシア!?」
「姉サンっ!?」

薄れ行く意識の中でこう呟いた気がした。

「メ・・・ントの・・・記憶・・・」

Hunting result
『疑い』
『謎の短剣』


ここで第一部は終わりです。
第二部はダンジョンの枠を乗り越えて世界中に飛び出していきます
止まらないように頑張りますw