Ancient memory 第十部 X X 「ユウもマモっさんも・・・ガイさんも王子も動けそうにないぜ」 「仕方ないわ。私たちで行きましょう」 「セルシアさん・・・少し冷たいのでは・・・」 「・・・ごめんねテイル、ここからは少しでも気を抜けば死んでしまう旅になると思うの。 冷たいかもしれないけど、今の彼らじゃ足手まといになるわ」 「・・・・・・はい・・・」 「ラスア、ウィザードゲートお願い」 ユウは喋らない。 マモとガイは意識不明。 ジェイスは呆けてしまっている。 4人を一瞥してセルシアはウィザードゲートに乗った。 一枚の手紙を残して。 久しぶりにサラセンに訪れた。 あんな天変地異が起きたあとなのにあまり住民は混乱していないようだ。 その証拠に中年女性カタツムリのモンスターがラスアを見つけ、抱きついていた。 「あなた、そんな人が趣味だったの?」 「ご、誤解・・・」 テイルが珍しく冷たい目で見つめる。 彼も必死に弁解しようとするがカタツムリの巨体で口も利けない状態であった。 「な、なぁ、ここモンスターの街だろ?ヤバイんじゃないのか?」 「平気よ。ほら」 サラセンは初めてなノーディはセルシアの後ろで脅えている。 テイルは以前に仲間から話を聞いていたのでそれほど怖くはなかったようだ。 宥めるセルシアの指差した方には、大剣を担いだカプリコ族の男がこちらへ向かって走ってきていた。 「あれはガディさん。サラセンの鍛冶屋だけどモンスターとしての信頼は高いみたいよ」 「セルにラスア!一年ぶりだなぁ、ジェイスはどこにいる?」 「ジェイスは少し用があっていないわ。あれから何かサラセンで変わったことないかしら?」 「ああ、とりあえず立ち話も何だ。俺の家に来いよ」 意外にもガディの家は片付いており、そして大きかった。 壁に自作の大剣やハンマー、斧に槍まで飾ってある。 「とりあえずよ、サラセンは表向きは変わってないが怪しい動きが裏であるんだ」 「また地位争いッスか?」 「それも絡んでくるかもしれん。ネクロ教団が暴れてやがる」 「ネクロ教団・・・ガイコツ被ったヤツ等にお似合いだな」 「そんな気軽いモンじゃねぇ、死してもまた我等の力で来世に蘇らせるとかどうのこうので・・・」 「死んでも蘇られる?そんな夢物語あるのかよ」 「いやー・・・実際あるんスけどね」 「・・・マジ?」 ラスアの言うとおりジェイスが良い(わけではないが)例だ。 コマリクは古代の魔力を水に籠めて作った蘇生薬。 古代の魔力が水に籠められて作られたのだから籠める魔力が蘇生の力を持っているということになる。 その魔力をネクロ教団が手にしているとしたら・・・ 「信者は死を恐れずに暴走する。そして蘇生が本当ならば限りない兵力になるということだ」 「それって・・・」 「ネクロ教団はサラセン、もしくはもっと広い地域を支配しようとしている」 「こりゃあすぐに手を打たないとヤバそうだな」 「ヤツらの拠点はサラセンダンジョンの最深部だ」 「また随分と根暗なヤツらッスね」 「ネクロなだけにな」 サラセンダンジョンへ向かう前にセルシアは闘技場を覘いてみた。 相変わらず活気と血気が盛んな場所だ。 注意書きがあった。 『禁止事項 ・相手を殺さない』 一年前はこんなものはなかった。 いつの間にか後ろに来ていたガディが嘆いた。 ネクロ教団のせいで殺す気で戦い、降参しても殺してしまうモンスターが増えているということ。 一年前は正々堂々と戦い勝ち負けを素直に認め合う清清しい場であったのに。 彼もまた闘技場の常連だったようだ。 ある日いつもどおりにエントリーをし、対戦相手が決まった。 相手はネクロ教団の信者。 殺しても生き返るからいいだろうとガディを殺す気で襲った。 仕方なかった。 そうしなければ自分が死んでしまっていた。 仕方なかった。 ガディの目から大粒の涙が溢れる。 彼のしたことを誰も責めはしなかった。 けれどこれから一生彼の心にこのことは残るだろう。 セルシアはただ誓う。 ネクロ教団を潰す。 命はこんな軽くあるべきモノではない。 Hunting result 『殺す意味』