Ancient memory 第十部 W


W


3人は信じられなかった。
ディグバンカーに潜っていた間に起きた天変地異。
簡単に言えばこうなるだろう。
「世界崩壊」


教会の中でセルシアたちは彼らと合流した。

「状況は・・・」
「騎士団はリンクを使って逃げたけど・・・
ガイさんとマモっさんの意識が戻らない、ユウもずっと俯いたままだ」
「それで、こちらの黒い女性は?」
「ステンノです、こちらがアルケミーです」

小さな声ではじめましてと呟き礼をする。
あまり人付き合いが得意ではないようだ。

「お久しぶりです、ステンノさん」
「あら・・・あの時の盗賊さん?」
「はい、すみません。こんな状況になってしまうとは・・・」
「いいえ、ルアスに偵察に行った魔女が教えてくれたわ」
「・・・何と?」
「王は死んだ」
「なっ・・・」

ジェイスが座っていた椅子を蹴り飛ばして立ち上がる。
嫌っていても自分の父親、冷静でいられるハズがない。

「さっきの地震でバハラ王宮の大半が崩壊、倒れてきた柱に王がやられたと聞いたわ」

口を開けて何かを喋ろうとする。
だが何も出てこない、何を喋ればいいのかわからない。
虚しく手ばかりが動くその姿は勇ましいジェイスの姿ではなかった。

「ステンノさん、ディグバンカーの最深部で
不思議な門のようなモノを見つけたのですが・・・何か知りませんか?」
「・・・メデューサがああなってしまったら話すしかないものね」


彼女らは、かつてスオミを追放された者たち。

普通の魔術師とは違い呪術を操った異端者として。
しかし出て行くときに残りたいような素振りは見せなかった。
それは出て行った方がよかった理由があったからだ。


「スオミダンジョンを知っているかしら?多分この世界で一番奥深くまで続いている洞窟よ」
「スオミの森から強大な魔力が流れてきたって情報もあったッスね」
「そこに・・・私達はある者を封印したの」
「ある者・・・?」


グレイヴ。
その魔力であらゆる者を操り、そして世界を支配しようと企んだ男。
魔女たちはスオミの住人に気づかれないようにグレイヴをスオミダンジョンの最下層へと封印した。
一人では不可能だった。何十人もの魔女が集まりやっと封印した相手、少しでも刺激を与えれば・・・


「目覚めてしまった。メデューサは魔女の中でも魔力が大きな方だったから・・・」
「でも、俺ッチそんな話聞いたことないッスよ」
「スオミの人たちには見られなかったし、それに大昔のことだわ」
「え?」
「私こう見えても何百年も生きているのよ」
「マジッスか・・・ところで、ディグバンカーの不思議な門とどんな関係が?」


魔力を固めるには、大きな渦を作ってねじる様に丸くするのが簡単だ。
ディグバンカーの大空洞は渦のような形状をしていた。
自然と魔力が中心へと固まり、強大なものとなっていたのだろう。
そして魔力は魔力と共鳴する。
スオミダンジョンのものと反応してウィザードゲートのような装置ができてしまってもおかしくはない。
ならばあの門を潜ればグレイヴのもとへとたどり着けるのだろうか?


「それは無理ね、正しく構成された装置じゃないから
ラスア君ほどの魔力を持った子が通れば弾けてしまうかもしれない・・・
ふふ、あなたなかなか美形ね」
「ス、ステンノさん!」
「あらあら、妻が怒っちゃ手は出せないわね」
「それで、グレイヴの元へ行くにはやはり・・・」
「スオミダンジョンの最下層から飛ぶしかないわね、
それに今のあなたたちではグレイヴは倒せないわ。黙殺されるのがオチ」
「どうすれば・・・」
「古代の武具があるわ」
「え?でもこの前知らないって」
「知らないことにしておいただけ。魔女は気まぐれ、知っているわ。サラセンに行ってみなさい」
「サラセン・・・わかりました。ありがとうございます」
「それじゃ、私はカレワラで魔女たちを宥めてくるわ。もう、彼女たちも限界みたい」
「・・・?」
「いずれわかることよ。行くわよアルケミー」

小さな声で返事をしてステンノが開いたウィザードゲートに乗る。
少し振り向いてカレワラへと飛んだステンノの目は今にも泣きそうなほど弱々しかった。


Hunting result
『小さな希望』