Ancient memory 第十部 V


V


「もう、一息に殺してやろうぜ」

騎士は死ぬそのときの一瞬まで戦う意思を消してはいけない。
ジェイスもそのことを知っており、それを守ってきた。
竜の目はまだ殺意に満ちている。相手を倒すまで立ち向かう意思に溢れている。
これ以上無駄に傷をつけるのは自身の胸が痛みつく。

構える槍の先がドロイカンマジシャンの額を狙う。
その時、不思議な音が聞こえた。
重なり合うように鳴り響き耳の奥まで遠慮なく入り込む音。
共鳴。

セルシアが落とした竜の角とジェイスが持つ槍が淡い光に包まれている。
そしてもう一つ。彼の腰に結びついている巻物が光りだした。
不思議に思っていると角が浮かび、先をジェイスに向ける。
まるでこのまま貫いてしまいそうなほど怪しく浮かぶ角は、やはり彼へと飛んできた。
目にも止まらない速度で迫る角の先端を狙ったように彼は槍で突く。
光が弾け、一瞬で消える。まるで、閃光のように。

「な、なんだ?」
「私のカチハプンもそれがきっかけに変わったわ。油断しないで、まだ相手はいるんだから」
「お・・・おう」

槍は色も形も変わっていない。
だけど力を感じる、目の前のドロイカンマジシャンと同じ力。
受け継いだかのように・・・

ドロイカンマジシャンが残った目を瞑る。
体に似つかない少し小さい翼でジェイスの方へと向かった。
ゆっくり、歩み寄るように。
人が手を差し伸べて歩み寄るように。

ジェイスの目の前まで来た竜は顎を上に向け、心臓という急所をさらけ出す。
殺してくれとでも言わんばかりの状態。
セルシアとラスアはその意味が分からなかったがジェイスは意を決したように槍を構える。
強く剛く、胸と共に心も貫くように槍を突き出す。
竜の最後の咆哮が響く。

竜は倒れた。大きな巨体が地面を揺らす。
塵が風に飛ばされるように消えてゆく体、薄く完全に消え去ってしまう直前にジェイスは涙を見つけた。



大空洞の中心の大穴を慎重に降りていくと、やがて長い一本道の層にたどり着いた。
そこにはノカンもザストもおらずただ不気味な雰囲気が体に纏わりついた。
殺気にも似た不気味な空気は瘴気、と言えばいいのだろうか。
3人の体力を著しく消耗させ、一番奥に着いた頃には何もいないハズの洞窟内で汗だくになっていた。
そして奥で見たモノに戸惑うばかりだった。

ぼんやりとした虹色の膜。
向こう側は普通の通路になっている、おそらく昇り階段であると目でわかるほど透けて見えている。
だがその虹色の膜はまるで違う世界を区切るようにしっかりと、だがぼんやりと張られていた。
ラスアは気づいた、さっきから纏わりつくこの空気。
これが原因だ。
虹色の膜までまだ十数歩あるがこれ以上近づけない。
近づくだけで心臓を握りつぶされそうな恐怖に駆られる。

「これ以上は無理そう・・・帰りましょう」
「そ、そうッスね」

既に呼吸も不規則になっていたラスアはすぐにウィザードゲートを開いた。
虹色の膜もウィザードゲートのように空間を結ぶように作られているのはラスアなら一目でわかる。
だがその向こう側に行くには、自分たちはあまりにも弱すぎた。
2人を先に行かせ、自分も行く前に後ろを振り返る。
膜の中にうっすらと、ほくそえむようなピエロの顔が見えた。
一気に背筋が凍える。胸が上に引き上げられるように勝手に脅える。
逃げるようにミルレスへと続く
ウィザードゲートを通るラスアの背を押すように背後から殺気が押し寄せていた。

ドロイカンマジシャンは何故ここに行かせなかったのか、わかった気がした。
ここを監視するため、ここの奥に潜む者を通らせないため。
あの門番の竜にはデスペラートワードの名が相応しい。


Hunting result
『ドロイカンズランス』


更新遅れて申し訳ございません。
引越しやら花粉やらで忙しかったです、でもROやってます。ナメてます。
スランプ気味ゆえに文が荒れていても目を瞑ってあげてください(ロ`