Ancient memory 第十部 U U ドロイカンマジシャンの口が開かれた。 ルケシオンでは蒼い炎を吐き出してきたが、今度は・・・ よく見るとあたりの空気が薄く緑色に染まっている。 そして喉が焼けるような痛み。 「げほっ、毒・・・だと・・・」 ジェイスが苦しそうに咳き込みながらこの正体を教えてくれた。 前に出ていたのは彼だけで、危うく3人とも毒にやられてしまう前にラスアが空気を吹き飛ばした。 「ジェイス、これを!」 緑色の小瓶を投げ渡す。 片手で栓を開けたジェイスはすぐにそれを飲み干した。 止まらなかった咳がやっと止まる。 「小細工してねぇで正々堂々立ち向かったらどうだ!」 と言っても彼らが先に攻撃することはできなかった。 大きな力の差、隙でも突かなければ必ず返り討ちに遭う。 そして吐き出してきたのは人の頭ほどの大きさの火の玉。 しかし、数え切れないほどある。 「メガスプレッドサンド!」 ラスアが詠唱を手早く済ませ、地面に左手の平を押し付けた。 火球がこちらに届く前に地面から大量の土砂が吹き上がるようにし、壁を作ったのだ。 見かねたドロイカンマジシャンが次に放ったのは巨大な炎の塊。 「援護するわ、隙を突いて!」 そう言って懐かしい文字が書かれた爆弾を投げつけた。 Jokerの文字が微かに残る爆弾はドロイカンマジシャンの顔面に当たり、黒い煙幕と共に破裂する。 目標を失ったドロイカンマジシャンは天井へと炎を吐き出す。 天井が崩れ落ちてくる瓦礫の雨をローリングストーンの応用で地面から作り出した石の壁で防ぐ。 煙幕を振り払おうとドロイカンマジシャンが首を猫のように素早く左右に振る。 できた、隙だ。 巨大な竜の顔まで飛び上がったジェイスが狙うのはただ一点の急所。 さっき自分を射殺すように見つめたその左目を狙い槍を突き出す。 竜の咆哮がまた響く。 大きなダメージを与えられたが煙幕が消えてしまった。 残る右目で3人を見つめたドロイカンマジシャンはまた炎を吐き出す。 今度は球ではなく、繋がるように長く炎を吐く。 地面に焼きついて巨大な壁を作ったドロイカンマジシャンが更に魔力を込めた。 「何ぃ!」 炎の壁が3人の方へと迫りだした。 ファイアウォールは狙った地面周辺に発生させる魔法が普通なのだが、 この竜にそんな常識など通用しないのだろう。 逃げる場所も無く、後ろに退くには狭すぎた。 (考えろ・・・どうやってこの状況を抜け出す?ファイアウォールで相殺は魔力が足りない、 バーストウェーブで吹き消すにもすぐ復活する・・・) 「もうあとが無いぞ!」 段々と迫る炎の壁にじりじりと退くしかなかった3人だがついに背が壁についてしまった。 (何故アイツが炎を得意としてるのか・・・そうだ!) 「兄貴!ドラゴンスケイルッス!」 ラスアがいきなり叫ぶが言われた通りに反射的にドラゴンスケイルを放つ。 騎士の中でも、強敵のドラゴンを倒すほどの強さを持つ者だけが使えるドラゴンの力を利用した技だ。 3人の体に薄く、ドロイカンマジシャンから感じられていた一部の魔力が張り付いた。 「だからってファイアウォールが平気なワケじゃないッス」 「だったら・・・走り抜けるまでだ!」 ジェイスが先陣を切って炎の中へと走り出す。 後を追うように2人も走り出した。 それが逆転の好機だった。 自分の放った炎の壁で相手の様子がよく見えないドロイカンマジシャンは油断していた。 まさか通りぬけてくるなんて考えてもなかった。 「ブラストアッシュ!」 突然目の前に現れたジェイスの槍が竜の腹を神速の速さで突く。 連なるように多量の傷がつき、血もあふれ出る。 それに続くように風のように近づいてきたセルシアが素早くドロイカンマジシャンの首元に飛びついた。 狙いは角の付け根。 メデンハプンが角の根元に突き刺さる。 それを支点に片手で逆上がりをしたセルシアは回転の勢いをつけ、 カチハプンでメデンハプンの刺さった位置を深く突き刺した。 そして二本の短剣を抜く、というよりは切り裂く。 ダブルスクラッチ 赤い血液を宙に舞わせながら地面へと角が落ちていく。 抑えようの無い痛みに襲われたことと、 セルシアを振り払いたいためか首をさっきのように左右に激しく振る。 それがまた隙になる。 「クロスモノボルト!」 セルシアがドロイカンマジシャンから飛び退いた直後に 焼け焦げてしまいそうなほどの強力な雷が何度も落ちる。 地面やドロイカンマジシャンに当たった雷は眩く弾け、 3人はしばし様子を見るしかなかった。 「ここまでやれば・・・」 「いや、まだだ・・・まだ倒れてない・・・!」 左目と頭と腹から大量の血を流し、竜の鱗は剥がれ落ち、翼のような部分は跡形も無く消えている。 それでもまだ立ち向かう。 大概の生物は勝てない相手だと知ると逃げて行くが今対峙している相手は違った。 この怪我で戦い、勝つのは難しい。 ここで倒れてはならない理由でもあるのだろうか。 三度目の咆哮が、響き渡った。