Ancient memory 第十部 T


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「な、なんだ今の地震は!」

ディグバンカー大空洞の中心までやっとたどり着いた3人は突然の地震に驚くしかなかった。
マイソシアは基本的に地盤がしっかりしており、地震などなかなか起きないのだ。

「今・・・強大な魔力が通り過ぎたッス」
「どっちから?」
「ミルレスから・・・マイソシア全土に」

ラスアが敏感に魔力の流れを感知した。
セルシアも魔力は高い方なのでなんとなくはわかるが、
ジェイスはまったくと言っていいほど魔法に関しては無反応だ。

「こりゃぁモンスターが暴れるッスね・・・」

ラスアの予想は当たっていた。
竜の咆哮が聞こえる。
ディグバンカーのこの大空洞に響くほどの、さきほどの地震を思い出させる声。

「2人とも、腹括った方がいいッスよ!」

段々と声が近づいてくる、この大空洞の中心にある大穴の中からだ。
覘かなくともわかる。この感覚。
強大な魔力に反応して目覚めた封印されていた意思。
まるで石油を掘り当てたかのように凄まじい勢いで穴の底から上がってくる。この感覚。
随分と、危険な石油だ。

「来るわよ!」

大穴を通りきれず端を壊して飛び出てきた蒼い竜。
3人は驚く、なぜなら一度見たことのあるアイツだからだ。

「ドロイカンマジシャン!?」
「なんでこんな場所に・・・」

かつてルケシオンでドロイカンナイトと同時にセルシアたちを襲ったこのドロイカンマジシャン。
あの時もかなりの魔力を持っていたが、今はそれ以上。
そして背中に乗せていたあの竜騎兵はいなくなっていた。
すぐに攻撃を仕掛けてくるかと思ったが、様子がおかしい。

ジェイスの構えた槍を悲しそうな目で見つめている。
おもむろに近づいてきたかと思ったら、今度は槍を咥えて持ち去ろうとした。
勿論奪われるわけにはいかないジェイスは力ずくで奪い返す。
奪われた槍を見つめるドロイカンマジシャンの目が、悲しい目ではなくなった。
邪魔者を見つめる目、ルケシオンで見た敵対する目ではなくただそこにいる物質を見つめる目。
まるで目だけで射殺されてしまいそうな・・・

「2人ともヤツの目を見ちゃダメッス!」

ラスアの声で我に帰る、気づけば汗だくで足は少し震えていた。

「あれはラストブレード、
使う者によって様子が違うッスけど敵の攻撃意思を失わせる列記とした魔法ッスよ」
「アイツは・・・強いな」
「多分今の俺らじゃ、怪しいとこッスね・・・」
「それでも、やりましょう」

緊張する2人を押したのは意外にもセルシア、彼女はいつも戦闘の状況を冷静に見つめていた。
それなのにこんな危険な敵と戦おうというのだ。

「この大空洞に充満する魔力、ノカンたちを狂わせているわ」
「マジか・・・そういえば確かに普段臆病な下っ端ノカンまで殴りかかってきたな」
「その元凶がコイツなら・・・倒す価値は十分でしょ?」

2本の短剣を抜く、ディグバンカーに着てから一度も抜かなかった短剣を今ここで。

「でも、コイツは元からこんな魔力持ってなかった。まだ謎はあるわ」

そういえば3人で戦うのは久しぶりだ。
かつての船長のとき、あれほど全員が死に物狂いで戦ったことは無い。
そしてセルシアに惹かれてここまで旅をしてきた。
決して強制ではない、2人はいつしかセルシアを追うように旅をしていたのだろう。

「どんな理由でも仲間を守るって言ったなぁ。
いいかそこのデカブツ、お前は俺の獲物だ。狙った獲物は逃さない」
「ノカンを狂わせているなら平和な世界はできないッスねん」
「ありがと、2人とも」

ドロイカンマジシャンが構えた3人を見る。
そして悟った、退いてくれないと。

ならば排除するまで。


Hunting result
『リーダー』