アスガルド物語2〜サラセン会戦〜その2 ガイエルの指揮する第六、第七騎士団は、 サラセンへと続く暗黒の森の中程で陣をしいていた。 戦闘が始まる気配はなく、 目下の任務はこの場所の確保とモンスターの駆除だった。 朝の日課であるクナ退治を終え、エイアグとロドは陣に帰還した。 いつもと違い、どことなく兵士達の顔に緊張の色がはしっている様に感じる。 「どうかしましたのか?エイアグ様。」のん気なだみ声だ。 近くにいたリコにエイアグは理由を尋ねた。 「ああ、そのことですか。心配いりませんよ。 今ガイエル元帥の所に他の御二方が来られているんです。それでですよ。」 「三元帥か…」 ガイエルのテントは陣の中程に建てられていた。青を基調にした元帥用の物だ。 中は二つに区切られていて、ガイエルの私室と会議用の部屋になっている。 どちらも殺風景なことには変わりないのだが。 会議用の部屋には、ガイエルの他に二人の男がいた。 一人は寛麗鳳。透通るような白髪に白の胴着、手には白扇を持っている。 白地に光る赤い目が、なんとも印象的な男だ。 もう一人は若草色のローブを身に纏い、長い黒髪を後ろで束ね みつあみにしている。目が悪いのか丸眼鏡をかけていた。 名はステファン。 「で、どうしますか?」ステファンが穏やかな声で意見を促す。 「俺はまどろっこしいのは嫌いだ。 一気にゴールドグリト砂漠を抜け敵の本陣を叩く。それで終わりだ。」 ガイエルの意見を聞き、麗鳳が口を開いた。 「基本的にはそれでいい。だがその前に、まずサラセンを落とす。」 「サラセンをですか?」と、ステファン。 「そうだ。もし奴らがサラセンのムタシャと手を結べば、挟撃される恐れもある。 カレワラの魔女どもはマサイに牽制させればいい。サラセンとマサイは敵対関係にある。 サラセンの支配権を餌にすればマサイは飛びついてくるさ。フフフ。」 「なるほど。で、分担はどうしますか?」 「俺はなんでもいいぜ。だが、ルアスでお留守番だけは勘弁だ。」 「それは、ステファンにやってもらう。」 「わかりました。」微笑むステファン。 「ガイエルには、このまま進軍しサラセンを落としてもらう。」 「まかせろ!」嬉しそうなガイエル。 「私は第二、第三、第四騎士団を率いてゴールドグリト砂漠を横断し敵の本陣を討つ!」 エイアグとリコが、ガイエルのテントに呼ばれたのは夜半を過ぎた頃だった。 テントにはガイエルの他にライラントが来ていた。 ライラントは第六騎士団の団長で槍の名手として名を馳せている。 どうやら、いつもの戯れ事ではないな… エイアグの心が高揚する。 ガイエルより先にライラントが口を開いた。 「どうやらこの先に、敵の別働隊がいることがわかった。」 いよいよ戦か…ん?… ライラントの奇妙な表情に気付く。 「斥候の報告によると、敵軍にもカプリコがいるようなのだ。 名前は確かアジェトロ。」 アジェトロ!… 「アジェトロ、確か三騎士の一人だったな。会ったことあるかエイアグ。」 さらっと問うガイエル。 「否…面識はない…噂で聞いただけだ…」 エイアグの心は高揚感ではちきれそうだった。 周りで話すガイエル達の声も耳に入らない。 強き者を求め旅をしてきた。そしてもうじき会える。 自分と同じく強さを求め、三騎士として名を轟かせたカプリコに。
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