アスガルド物語〜序章〜その9


地に片膝を着きエイアグが近づくのを待った。
ゆっくりと向かってくるエイアグ。

もう少しだ。もう少し近くにこい。

エイアグとの距離が1m強に縮まった。
大剣を上段に構える。

今だ!

下半身のバネをフルに使い突進する。
鎧の隙間を狙い、下から突き上げるえぐり。
麗春の得意の一撃。確実に致命傷をあたえられる必殺技だ。

が、エイアグの大剣は弧を描かずに、そのまま垂直に打ち下ろされた。
ダークの先端がエイアグの体を捕らえたその瞬間、大剣の柄が麗春の手首を打つ。

右手首の骨が砕け、ダークを握る手の感覚が消えた。大剣が麗春を狙う。

超至近距離…

「うおぉぉぉぉっ!」

雄叫びを上げ、肩に大剣を食い込ませながらも
エイアグの顔面に頭突きをぶち込んだ。
鉄仮面を吹き飛ばされ、押し戻されるエイアグ。

呼吸が整わない、出血のせいか。
両腕はもう使えない…どうする。

エイアグは至って冷静だった。
これほどの好敵手に出会ったのは数年ぶりだった。しかし、

あの人間は、もう戦えまい…

そう思うと、残念でならなかった。

耳を澄まし相手の位置を確認する。
辺り一帯に、肉の焼け焦げる臭いが充満している為、鼻は利かない。

相手の呼吸の音が聞こえる。

あらいな…

エイアグは、麗春のいる方向へ向き直り、ゆっくり顔を上げた。
カプリコ独特の獣の顔。だが、エイアグは他のカプリコとは少し違った。

白濁色に濁った二つの眼。
彼は、眼が見えなかった。