アスガルド物語〜序章〜その7


麗春は今さらながら、ここに来たことを後悔していた。

戦っても勝ち目はない。
それに、もともとエイアグと戦う為に、ここに来た訳じゃない。

戦う理由もない。
逃げるか。どうやって?逃げれるのか?

「参る…」言うが早いか剣を振りかざして突進してきた。

「ちぃ!問答無用かよ!」

とっさに着ていたコートをエイアグに投げつけ、視界を奪い背後へ回り込んだ。

とった!
勝利を確信し渾身のえぐりを放つ。

ガンッ

鈍い金属音。
麗春のダークは、逆手に持ち替えたエイアグの大剣に防がれていた。

すぐさま後ろへ跳びのくが、
振り返りながら放ったエイアグの一撃が、麗春の腹部をかすめる。

痛みはさほど感じなかった。戦いの高揚感のせいだろう。

エイアグが剣を振り切ったその一瞬に間合いを詰める。
が、素早く後ろに引き間合いを広げるエイアグ。

奴の大剣の間合いは中距離、俺のダークは超至近距離。
なんとか間合いを詰めなければ。

麗春の思惑を悟ったのか、
弧を描く斬撃から細かい突きへと、エイアグは攻撃を変化させてきた。

すばやく体をひねり突きをかわすが、完全にはかわしきれない。
エイアグの攻撃により、少しずつ麗春の体が削がれていく。

「ちぃ!」思わず声をあげる。

その時、視界の端に人影がうつった。

男だ。

黒い長髪。色白の顔に丸眼鏡。若草色のローブ。

魔術師?

麗春が男に気を取られた瞬間、エイアグの剣が左肩に突き刺さる。
苦痛から声がもれ、そのまま後ろへ吹き飛ばされた。

男に助けを求めようとしたが、その姿はもうどこにもなかった。
ゆっくりとエイアグが近づいてくる。

麗春は死を覚悟した。