第五章:「涙」


スオミに着くや否や、
青白い顔をしているサキを宿屋に寝かし、
俺は「聖職者」を探した。

聖職者とは、神に仕える神官のようなもので、
その神から授かった特殊な力で、
人を治癒したりする能力を持った職業の事だ。

神など元から信じちゃいなかったが、
聖職者ならなんとかしてくれるだろう・・・と、
漠然とした希望を持っていた。


スオミは魔術師の街なので、
探すのが大変かと思われたが、案外すぐに見つかった。

その格好からしてかなり高位な聖職者であろう。
俺はその女の聖職者に声をかけ、
宿に来てもらえるように頼んだ。



「この方ですね?・・・」

サキの寝ている部屋に連れて行き、
事情を話すとすぐにその聖職者はサキの状態を確かめた。

「・・・毒でも怪我でもない・・・」

「なんとかなりませんか?・・・」

俺はいてもたってもいられなかった。
おそらく、人の為にこんなに自分の感情を左右されるのは、
あのルアスでの時以来だっただろう。

その時はそんな事に気づく余裕もなかったが。


「一応・・・やれるだけの事はやってみます」

「・・・お願いします・・・・・・」


神がいるなら信じる。
だから、サキを助けてやってくれ・・・

そう祈りつつ、何もできない自分を恨めしく思った。








その祈りは結局・・・




届かなかった。





聖職者の言う事には、元々サキは重い病気を患っていたとの事だった。

高位の聖職者になれば、
死んだ人間を蘇生させる術をも心得ているというが、
病気で死んだ人間には・・・
例え生き返らせても、またすぐに・・・・・・

そしてそれは神の教え、道理に反するという・・・


そんな事はこの時の俺には何一つ耳に入らなかった。

ただ、サキが死んだ、という事実しか頭になかった。

俺を心配させまいとして、
ひたすら病気の事を隠していたのだろうか。

あの時も、あの時もずっとサキは
病気と闘っていたのだろうか。


そういえば、一度だけ聞いてみた事がある。

「なんで、サキは修行するんだ?そんなに強くなりたいのか?」

「ん・・・自分との戦いかな?w
 ほら、いつ死ぬか分からないじゃん、人間なんて。
 だから、生きてる間に悔いを残さないようにしないと・・・w」

その時はサキの意外な一面に多少驚いたが、
今となっては、それがサキの本心だったように思えた。



俺が人を信じられなくなって以来、
唯一信じられた人間。

それがサキだった。

そして、俺はまた、信じた人間を失った。




その夜、俺はサキの亡骸を、
月の光で青く光るニミュ湖に、
静かに・・・静かに・・・沈めた。

ルアスで流した涙が最後だと思っていたが、
まだ俺の心は涙を流す事ができていたらしい。


こうして、いつまでも続くかと思われたサキとの旅は、
突然の終わりを迎えた。

あっけない幕切れだった・・・