第四章:「異変」


それからサキとの旅は何日も何日も続いた。

ミルレスへは比較的早く着いたのだが、
そこからまたサラセン、
そしてルケシオンという街へも
サキの「修行」の為、俺は「道案内」として旅を続けた。


人を信用できるようになった訳じゃない。

だが、サキの持つ雰囲気が、徐々にではあるが、
「信じる」という言葉を
思い出させてくれたように感じた。

それは決して悪い物ではなかった。
むしろ心地良いとすら感じさせてくれた。

サキが俺を信用してくれていたからだろう。
いつしか俺はその信用を裏切るような事はできないと感じていた。

それは、俺が親父にされた事と同じ事をするのだという思いが
どこかにあったからなのかもしれない。


だが一方で、完全にサキを信じる事のできない自分もいた。

「人を信用するな」

その教えはいつまでたっても心のどこかに残っていた。




その日、ミルレスとスオミの中間くらいに位置する森で、
いつものようにサキが「修行」を行っていた。

俺は今晩の夕食を探すべく、
「キキ」というモンスターを探して歩いていた。
「キキ」の落す肉を目当てに。

何匹かのキキを狩り、ようやく二人分の肉を集めると、
俺はサキのいる場所へ向かった。

サキは俺を見つけるや否や、
何を思ったか突然蹴りかかってきた。

「な、なんだよ!?」

驚く俺に構わず、サキは不敵な笑みを浮かべた。

「ふふふ・・・マシンガンキックをようやく習得」

「へぇ」

最近の蹴りの練習はこの為だったのかと納得し、
その場へ座り込んだ。

「ぉ。肉?」

サキは俺が先程手にいれた肉を目にして言った。

「これでいいだろ?」

「ウムw」

上等上等と言わんばかりに俺の手から肉を奪い取って、
美味しそうに頬張り始める。

それを見て、俺も自分の分の食料を食べ始めた。

「どうだ?」

「んー、微妙」

「けっ」

「拗ねるなょw 美味いょw」

そんな、どうでもいい普通の毎日がいくつも過ぎていった。

この時の俺にサキへの恋愛感情なる物があったかどうかは分からないが、
少なくともそんな毎日が幸せではあった。

いつまでも続けばいい、
とはどこかで思っていたかもしれない。

だが、そう願ってはいけなかったのだろうか。

それから間もなくの事だった。



その日、サキはいつもと変わらなかった。

はずだった・・・

突然の体の不調を訴えるまでは。


「ジュウト・・・なんか・・・気分が悪い・・・」

「ん?どうした?」

今までとは違う様子に、多少慌てたものの、
何か変な物でも食ったんだろう、と思い、
さほど心配はしなかった。

だが、何か変だ・・・あまりにも様子がおかしい。

そう思った矢先、サキがバタッとその場に倒れた。

「おい!サキ?・・・大丈夫か!?」


俺はとりあえずサキを街に連れて行く事にした。

だが、ここから歩いて行くには結構な時間がかかる。

と、その時「スオミリンク」というアイテムを
所持していた事に気がついた。

複数人数をいっぺんに、一瞬にして街へと送還できる、
一種の魔法アイテムであった。

いつの日かの食料調達の時に、
敵が落としていった物だった。

それを使い、俺とサキはスオミへと飛んだ。