第三章:「親から教えてもらった事」


その修道士の名前は「サキ」というらしい。
案の定、修行の旅の途中で、道に迷っていたところを
テズモに襲われていたようだった。

スオミに着き、そこでサキと別れた。


スオミの街に入ると、ルアス程とはいかないまでも、
人の姿を見る事ができた。

俺は近くの宿屋で宿をとり、旅の疲れを癒す事にした。

夕飯時になり、食べ物を探しに街へ出る。

一軒の料理屋を見つけ、中に入った。


「あ、ジュウトさん?」

先程別れたサキがそこにいた。

「あぁ、さっきは」

サキは何も言わず同じ席に着く。

料理が運ばれてきて、お互い食べ物を口に運んでいたが、
しばらく後、サキが口を開いた。

「ジュウトさんは何でスオミに?」

・・・目的なんかない。
ただ・・・追手から逃げているだけだ。
しばらくしたらまたスオミを出るだろう。

「いや・・・別に目的は・・・」

「ほぅ・・・アタシと同じ修行ですか?w」

「修行とかそんな理由じゃ・・・w」

どこか間の抜けた、このサキを相手にしている自分が
なんとなく可笑しかった。

それからしばらくサキと何という事はない会話をした。

普段あまり喋る事のない自分が、
このサキとだけはためらいなく話せている事に
多少驚きながらも。


いくつかの会話の後、サキがこう言った。

「もし旅の目的がないなら、
 一緒にミルレスに行ってみない?
 アタシ一人じゃ迷っちゃって帰れない・・・w」


「・・・ちょっと待て。俺は仮にも盗賊だぞ。
 それでなくとも、簡単に人を信用するもんじゃない・・・」

俺にはサキの思考が分からなかった。
世間一般、盗賊という職業はその名が表すように、
どちらかというと忌み嫌われる存在である。

それにたかだか数時間話しをしたようなだけの人間を
そう簡単に信用できるその心が信じられなかった。

いや・・・俺がギルドに・・・親父に裏切られてから、
誰も信用できなくなっただけの話しかもしれない。

「ジュウトさんいい人じゃん。
 少なくともアタシは信用するよ」

サキは少し怒った風に言った。

俺には、それすらも嘘のように・・・
俗に言う世辞とでもいうのだろうか。
そんな風に聞こえてしまっていた。

親から最後に教えてもらった事。

それが、「人を信用するな」・・・

「それともアタシが信用できない?w」

サキは冗談交じりに言った言葉だったが、
俺はそのまま何も言う事ができずにいた。

「うゎ・・・そうなんだ・・・。
 酷いよ・・・」

最後にそう言い残して、
サキはその場から去っていった。



次の日の朝、スオミを出る事にした。

サキに対しての罪悪感もあったが、
何よりこのスオミの明るい雰囲気が
俺に合わない気がしていた。

サラセン・・・という街にでも行ってみよう。

通称、暗黒の森と呼ばれる凶悪なモンスター達が潜む
日の光も届かないような木の生い茂った森の奥にあるという、
邪教の都。

俺に合うのはそういった所なんだろう。

それに、奥地であれば奥地であるほど、ギルドからの追手も
遠のくに違いない。


スオミの街の出口に着くと、
そこには待ち構えていたかのように、サキが立っていた。

「あ、来た」

「え?・・・」

俺は何でサキがそこにいたのかが分からなかった。

「ミルレス行くって言ったじゃん。ほら、行くよ」

「・・・怒ってるんじゃないのか?」

「いいょ。アタシは修行、ジュウトさ・・・ジュウトはその道案内でw
 そっちがどう思おうが勝手だけど、アタシは信用するし」

「・・・そか。」

半ば強引に連れ去られ・・・俺は、
いや、俺とサキはスオミを後にした。