第一章:「裏切り」


辺りは漆黒の闇に包まれていた。
ここはルアスの街外れ。

街の中心部へと行けばこの時間であっても
人の群れを目にする事ができるのは、
さすがはマイソシア大陸の首都という事はあるのだろう。

だが、ここには人の気配はなかった。

いや、あるとすれば、この俺・・・「ジュウト」

幼い頃、カプリコ・・・という種族によって
滅ぼされたある町で、孤児になったところを、
盗賊団の頭に拾われた。

まだ物心もつく前の話だ。
そんな記憶はない。

後からそんな話を聞いても、
何の感情も沸かなかったのだが。


そして今、俺はその盗賊団に追われている・・・

居心地がいいとは言えなかったが、
長年仲間と共に暮らしてきた所だ。
少なくとも、俺の「家」ではあった。

だが・・・

くそっ・・・なんでだっ。


最近、ルアスにあるいくつかの盗賊ギルド同士で、
縄張り争いが激化してきた。

ウチのギルドも勿論例に漏れずに。

俺は、親父・・・ギルドの頭から命を受け、
単独で他のギルドの首領の暗殺を試みた。

結果は成功に終わったのだが、
後が良くなかった。

そのギルドのメンバーに顔を見られてしまったのだ。

なんとかそこから逃げ、ギルドに戻ろうとした。
だが・・・

罠だった。

ギルドとしてではなく、俺一人による単独行動とさせ、
罪を被せるつもりらしい・・・

自分の目と耳を疑った。

血は繋がっていないとはいえど、
実の親子のように接してきた親父に、
こうも簡単に裏切られるだなんて。

何かの間違いであってほしい・・・

最初はそう思っていた。

だが、その思いは徐々に薄れていった。

今はただ、俺を捕らえようとする追手から
なんとか逃れる術はないかと考えるのに
精一杯だった。



このまま壁を越えて向こう側に出れば、
闇に紛れてきっと追手を回避できる・・・

長年居たルアスともこれでお別れか・・・

親父・・・いや頭とも・・・


俺は一呼吸置いて、素早く壁をよじ登り、
後ろを振り返る事もなく、闇へと身を隠した。

一筋の涙が流れていただなんて、
気づきもしなかった・・・