第六章:「結末」 ルゥの長い話をただ黙って聞いていたアシュトーは、 やっとその口を開いた。 「・・・だからって・・・ そんな事を・・・許す訳にはいかない・・・」 「アシュトー・・・ 嘘だと思うなら自分の目で確かめればいい。 何故人間は温厚なはずのカプリコやノカンと 争い続けている?」 「・・・お互い相成れない種族だから、か?・・・」 「違う。 全ては人間がカプリコやノカン達を脅かすからだ」 「だがっ!それは守るべきものがあるからで!」 「守るべきもの?・・・彼らの生活を脅かしてまで 守らなければいけない物ってなんだ? 別にカプリコやノカン達の肩を持つ訳じゃあない。 カプリコとノカンとの間にも争いはあるからね。 ただ、万物の霊長として君臨している人間の、 その傲慢な所業が許せないだけだ! 何故全ての生物の共存ができない! 僕は、神の力を手にいれた。 それはきっと絶対なるものの意思なんだろう。 なら、その意思のままに、この世界を変えてみせる!」 「ルゥ! お前はその強大な魔力に取り込まれているだけだ! 目を覚ませっ!」 「・・・たしかにそうかもしれない。 僕自身の意思じゃあないかもね。 でも、これがこの世界の運命だとしたら いずれ僕じゃない誰かが同じ事をやるだろう? ならば早い方がいい。誰がやったって同じ事だ」 「人はいずれ変わる!自らの力で! それを待つ事はできないのかっ!?」 「その間にもまた純粋な命が失われていくんだ」 「お前のやろうとしている事も同じだろう!?」 しばらくの沈黙が続いた。 二人の間には、かつて一度たりともなかった緊張感が 流れていた。 最初に話しかけた時のそれとは 似ても似つかない空気がそこにあった。 「・・・話し合っても無駄なようだね・・・」 「そうか・・・お前の意思は変わらないんだな。 なら、俺はお前を止めなきゃならない」 「アシュトー。君をこの手で殺めたくはないよ・・・ 頼むから退いてくれないか?」 「ルゥ、村での誓いを覚えているか?」 「あぁ。お互いの夢を叶えたら、 あの木の下でまた会おう、と」 「・・・その約束は果たせそうもないな」 「そうだね・・・」 「・・・お前がどうしてもこの世界を消滅させるというのなら まず俺を消してからにしろ」 アシュトーはそう言い、静かに剣を抜いた。 スッと切っ先をルゥに向ける。 敵うはずがない事は分かっていた。 おそらく、一撃で自分は倒れるだろう。 そしたらその後は・・・ だが、何もせずかつての親友の行いを黙ってみている訳にもいかない。 それに・・・親友の手にかかって死ぬのなら本望だ。 「行くぞ・・・ルゥ」 「・・・そうか。分かった・・・」 魔術師が魔法を唱えるにあたって、必ず隙ができる瞬間がある。 詠唱中である。 どの魔法も詠唱呪文なくしては発動はできない。 高位魔法になればなるほどその詠唱呪文は複雑さを増してくる。 となれば、発動前、その詠唱中にしかアシュトーのせめてもの勝機は 見出せなかった。 「ルゥ!俺の命に換えてお前を止めてみせるっ!」 一瞬で間合いを詰め、横から剣を薙ぎ払う。 ルゥはまだ詠唱を始めてもいない。 切っ先がルゥの衣服に触れたその時、 アシュトーの体が宙に浮いて、そのまま後ろへ吹き飛んだ。 「ぐはぁ!・・・・・ ・・・え、詠唱もナシかよ・・・デタラメだな・・・」 「・・・君に勝ち目はないよ・・・ 大人しく退いてくれ・・・」 「そうは・・・行かない・・・ このまま黙って見てられると思うか?・・・」 「ふっ・・・そうだったね。君はいつでもそうやって・・・」 ルゥの右手が光ったかと思った瞬間、 自分の左腕に激しい痛みが走った。 「ぐあぁ!!」 「これ以上の戦いは無意味だ・・・ せめて、痛みを感じる間もなく消して上げるよ・・・」 ルゥが意識を集中させている間、 アシュトーは立ち上がって再び剣を構えた。 おそらくこれが最後だ。 なんとしてでも止めてみせる・・・ いくら詠唱がなくとも、発動の瞬間だけは動けない。 自分も魔法を受けるだろうが、 なんとか・・・なんとかルゥを止める事ができれば・・・ アシュトーは正面から飛び込んだ。 「うおぉぉぉぉぉ!!!!」 ルゥの魔法が発動する。 「・・・ルゥ・・・」 そこには倒れるルゥの姿と、その顔を覗き込むアシュトーがいた。 「ハハハ・・・やっぱりアシュトーは強いな」 「何故、外した・・・」 「僕にも最後の良心が残っていたのかな・・・」 「・・・・・・」 「止めてくれてありがとう・・・アシュトー。 大きな間違いを犯す所だった・・・」 「いや・・・・・・」 「君なら正しい方法で変えられるかもね・・・この世界を」 「・・・・・・」 「空から見届けているよ・・・」 「ルゥ・・・」 そして静かにルゥは目を閉じた。
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