第一章:「約束」


ルゥがノルアに来てから数ヶ月が経とうとしていた。
当初は一〜ニ週間程の滞在の予定だったが、
師匠のラヴィンの都合で結局村に住む事になったのだ。

アシュトーとルゥにとっては関知しない事であったが、
これからもずっと一緒に遊べるというのは、、
むしろ望ましい事ではあった。

といっても、ルゥは見習いの魔術師。
学ばなければいけない事もたくさんある。

師匠から課せられた自らの修行の時間、
アシュトーはその様子を毎日側で眺めていた。

「ルゥ、お前は将来何になりたいんだ?」

そんな様子を眺めながらアシュトーはある日聞いてみた。

「そりゃもちろん、師匠のような魔術師に・・・」

一点の迷いもない回答が返ってくる。

「へぇ・・・魔術師って何をするんだ?」

「何って・・・うーん。世の中の見聞を広めたり・・・」

「なんか曖昧なんだな、魔術師って。」

「そういうアシュトーは何がしたいのさ?」

「俺はルアスの王宮騎士団に入って、皆を守るのさ!」

「守る?・・・何から?」

「お前何も知らねぇんだなぁ。
 それで見聞を広めるってなんだよ。」

「・・・・・・」

「いいか、この世界には人間だけじゃない、
 他にも種族がいるのは知ってるよな?」

「うん。カプリコやノカンだね。」

「あぁ。そいつらとのイザコザが時々あるんだよ。
 それを治めるのが騎士団って訳だ。」

「へぇ〜・・・
 でも他の種族とも上手くやれたらいいのになぁ・・・」

「ん・・・ま、まぁそうだな・・・」


アシュトーにとって、ルゥはとても心の優しい人間に見えた。
森に遊びにいった時も、低級なモンスターを見つけては
剣に見立てた棒っきれを振り回す自分に、
危害を加えてこないモンスターには手を出しちゃダメだ、と
ルゥはいさめるのである。

いつしかアシュトーもその心が分かってきたのか、
無益な殺生はしなくなっていた。



そうやって月日が流れた。



それから数年。

二人が少年から青年へと移り変わろうとしている時期である。

アシュトーは自分の夢を叶えるべく、
来月からルアスへ行く事に決まっていた。
ルゥは師匠から教わった魔法の数も増え、
元からあった才能に加え、
努力を惜しまない性格ゆえか、
未熟とはいえども立派な魔術師になりつつあった。

「・・・なぁ、もし二人で夢を叶えられたら、
 いつかこの村でまた会わないか?」

「うん。いいね。」

「この木が目印な。
それで、最初に夢を叶えた方が、ここに印をつけるんだ。 
 いつになるか分からないけど、
 この木の下でその時また会おう。」

こうして二人は別々の道を歩んでいった。
互いの約束を胸に。