第三十八話〜長い夜の終わり〜



その瞬間、全ては凍りついたようにとまっていた。

想像を絶する殺気と魔力の波動中、戦っていたものどもは手を止め、呆然とそれをみる。

 ドゴゴゴ・・・ドゴオオオン!!

赤毛の少年、レオンが壁に吹き飛ばされ、爆発して地に伏した。

その目の前にゆっくりとあゆみよる黒い闇をまとい、冷酷な殺気と邪悪な魔力を纏う男・・・。



「・・・チッ、化け物め・・・」

空中で何百本ものダガーを水で形成しかけていたオフィエルが、
私の前方でそれをやめ、二人の間に水が振りそそぐ。

否、これは動きを止めたのではない、動けないのだ。

「あれがヘブン・・・、ほんと何でもありね、彼は。」

ティアも剣を構えた状態ながら、横目で彼を見ていた。

シンとした空気を振るわせるのはヘブンの放つ波動のみ、
全ての戦いは中断され、ただ呆然と彼をみるだけとなった。

「こりゃあエライことになったな〜、あんたらも終わりがきたみたいやで?」

「・・・」

冷や汗をかきながら、それを見つめるクロスと、
表情のない顔ながら、確かに威圧感を感じているハギト。

「うそ・・・何よこれ。 イービルアイまで震えるなんて・・・」

「ヒャヒャヒャ、こりゃあ地獄の悪魔もびっくりだな。」

「・・・これほど強力な魔力、初めて感じるわ。」

強力な魔力をかんじ、怯えるように震える魔法武具“イービルアイ”を抱き、呆然とするルナ。

それをすこし離れた位置から横目で見ながら、
炎の悪魔フィアンマとレルシアも、彼から視線をはずせずにいた。

しかし、もう一つの力が目覚め始めていたことを誰も知ることはなかった・・・

「これは・・・心地いい、心地いい殺気だ。
これほど心地よい目覚めをむかえられようとはな・・・」

銀髪の少年、シリウスはそれを見ながら呟いていた。

その華奢な体は震えていた。

無理もない。これほどの殺気など、よほど鍛えられていらなければ、
とても立っていることさえできない、想像を超えるプレッシャー。

しかし、この少年はちがうようだ。

『是非とも死合ってみたいものだ。 ククク・・・』

これは喜び!

歓喜を持ってこの殺気を受け止めているようにも思える。

そしてその瞳には血のような紅い光が宿る・・・。




ヘブンが足元に倒れるリルムを抱き起こしたとき、

まるで弾け飛ぶような殺気の波動が一瞬とおりすぎたあと、
場を支配していたプレッシャーは消えうせていた。

まるで魔法から解けたかのように、全員は体が動くようになっていた。

「さて…魔法武具“ヨルムンガント” 返してもらおうか。」
リルムを片手で抱いたまま、
もはや虫の息で地に仰向けに倒れているレオンのもとへとゆっくりと近づくヘブン。

「やらせるわけには・・・いかん!」
バッ、ティアの前からオフィエルが消える。

「・・・まずはやはりあいつからだ。」

「まて、にげるんかい!」
クロスが杖をふるったときには、ハギトは高速で移動し、クロスの前から消えていた。

「もう! いつも威張り腐ってるくせに、いざとなると足手まとい!」

“テレポート”

一瞬の隙をついて、ルナもレルシアの前から姿を消した。

 バババッ!!

今、ヘブンの前に3人の姿があらわれ、それぞれが無言で武器を構えた。

だが、彼らもわかっている、もしも目の前の男が本気になれば絶対に勝てないと。

「・・・どいてもらおうか。 俺にはお前達では勝てない・・・。」

 といってもハッタリなんだが・・・

リルムを抱き支えながら、3人とヘブンは対峙する。

「断る。 レオンをやらせるわけにはいかん。」

「あんたなんてぶっばしちゃうんだから!」

「・・・死合の続きだ・・・」

 こいつら・・・。

 バァアアン!!

その時、突然大扉が勢いよくひらいたかとおもうと、黒い疾風がその間に音もなく割り込んできた。

紅い大槍を携えた疾風・・・

「おまえは?!」

「たいちょー!」

「ルシフェル・・・遅い。」

全身を一色の色のマント、暗黒の衣を纏い、鋭い顔つきの目には濃緑の光を、
そして闇に混ざりそうな濃蒼の長髪が、肩まで垂れ下がる。

騎士、ルシフェル・・・

スッ、彼が腕を静かに上げた瞬間。

彼らの足元に巨大な黒い穴がひろがり、彼らは地面へ沈み込んでいくようにゆっくりときえていく・・・

もちろん、レオンもその姿勢のまま沈み込んでいった。

一種のゲートのようなものだろうか。

「まて!」

ヘブンが駆け出したが、もう遅かった。

「今回は引こう。 我らの任務は完了した。 また会おう、次は今度のように行かない!」

捨て台詞をのこして、彼らはルアスから消えていった・・・。