第二十九話〜深夜のルアス王宮〜 すっかりと日が落ち、ルアスの町が闇に覆われ、人々が眠りにつく時間。 今宵は雲もなく、月の光がルアスで一番大きな建物、ルアス王宮をやみに浮き上がらせていた。 「う〜ん…もうこんな時間か。」 王宮の一角、騎士団事務室と書かれた部屋から、明るい光が廊下に漏れていた。 中には紅い絨毯が引かれた部屋、莫大な量の書類が詰まれた机の上で、 一人の男が羽ペンをせっせと走らせながら、柱にかかった大きな古時計を見ていた。 チク、タク、チク、タク。 時計のなる音だけが、ガランとした場内に響いている、そんな気がするほど静かな夜。 今日はここまでにして仮眠室にでも… そう考えながら、男は立ち上がった。 耳まで届くか届かないかないかぐらいのゴワゴワした金髪、 そして少し幼さが残る顔に、金色の髭が申し訳ない程度に伸びている。 そして、王宮の正装、濃赤色と白のマントを身に着けている。 この男こそ、ルアス王宮騎士団をまとめる男、団長スルト・バークライツ。 彼は、部屋の明かりを消すと、廊下を渡り仮眠室へ… ん? あの部屋から気配がする… 仮眠室から2個手前の部屋、王宮武器保管庫。 たしかに、人の歩く音と、気配を、彼の優れた感覚が感じ取っていた。 ガシャーン、ガラスの割れる音まで響く、確実に誰かいる! 「誰だ! そこにいるのは。」 彼は部屋の入り口の扉を開け放つと同時に、一喝した。 さっ、影のような気配が部屋の中央へ… 「おまえは!?」 それはとても異様な者だった。 全身を一色の色のマント、暗黒の衣を纏い、鋭い顔つきの目には濃緑の光を、 そして闇に混ざりそうな濃蒼の長髪が、肩まで垂れ下がっていた。 そして手には… 「む、“サラマンドラ”!? おまえ、その槍を盗み出そうとはちょっと冗談がきついな。」 彼は、背中に背負った愛用の武器を取り出した。 全長2メートルものながさをもち、それらの全てが黄金で装飾されたザベル。 その切っ先は確実に男を捉えている。 「いいだろう。 俺は受けて立ってやるぜ」 その男も、大槍“サラマンドラ” ―かっての大戦時に魔法の力で作られた炎の属性を持つ 全身が燃えるような紅く、古代文字で装飾されたやり― を構えた。 暗闇がいっそう暗くかんじるような強烈なプレッシャーが、対峙する二人に走る。 そのような状況の中でも、騎士団長、スルトは冷静な思考をめぐらせていた。 百戦錬磨の落ち着きというものか…瞬時にして流れのパターンを構想する。 あのサラマンドラを使われるとさすがに苦戦も考えられる、一気に攻めて槍をとりかえさないとな 彼は、重心を低く、後ろへひきつける。 そして踏み出した右足へ力をかけ…槍と共に中を舞う。 “ピアシングボディ” 弾丸と化した彼の槍が、男に突き進む。 「ふん、あめぇ!」 男は、その槍の軌道をよみきり、瞬時に体をひねる。 狙いは交差際にがら空きの背中に… いや、槍は通過したがスルトはとまっている!? そして、両手で槍の柄を握り締め… ガキィィン!! 金属がこすれあう音が響き、男は吹き飛ばされた。 スルトの槍は金色の光の軌道を残しながら、剣のように横になぎ払われていた。 「チッ」 空中で一回転して、間をとる男、しかしそのような隙をスルトは与えてはくれない。 “ハボックショック” ボゴォォォ、、、メリメリメリ 木製の床が弾け飛ぶような衝撃波が、真下から男を突き上げる。 瓦礫舞う中心にみえる黄金のやり、それが今大きく引き抜かれ目標を捕らえる。 「これで終わりにしよう。 若者よ。」 “ブラストアッシュ” 無数の分身したかのように増えゆく槍の弾幕が、空中の男へ突き進む。 これでは逃げ場も… 「なめるな。 うぉおおおお!!」 男は、迫り来る弾幕を、大槍サラマンドラもちいて、同じ技をおこなった。 弾幕と弾幕が、、、ぶつかり合う! ドゴゴゴゴゴゴ!! バンッ!! 凄まじい技の衝撃波の均衡に、行き場をなくした力は空中で破裂し、二人を後方へ吹き飛ばす。 ガラガラガラン、金属製の槍やら剣、鎧などが大きく音を立てて床へ落ちる。 「ふん、、、なかなかやるな。 名は?」 スルトは、槍を地面へつきたて、勢いよく直立姿勢へ戻る。 「名前か…ルシフェル、仲間からはこう呼ばれている。」 男も、マントについた埃を払いながらまた槍を構える。 ボォォォォ、槍に炎が纏わりつく。 「このような場面でなければ、入団をすすめたのだがな。 だが、逃がしはしない。」 「ふん、俺もごめんだ。」 「おらぁ!!」 「ふんっ!」 ガキィ、ガキガキガキィィン 槍は勢いを増しながらぶつかりあい、二人の戦いは闇の中で続く…。
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