第二十三話〜撃破〜



私は、金色の光に包まれているような、そんな光をみていたような気がした。

もう、それはあの世へのお迎えなのかもしれない、本気でそう考えていた。

光の中に人がみえる...だれ? パパなの…?

「戻ってきましたよ、ティアさん!」

「え?」

幻聴? そうよね、彼の声が聞こえるはずが…

 ガキィィィィン!!

金属と金属が激しくぶつかり合うような音。

それは、私を幻覚から覚ますには十分すぎるものだった。

ドサッ、私は冷たい床に落下した。

「いたっ!」
 生きてる、それじゃあ…ほんとに戻ってきたのね。

「シリウス!」
彼は獣人の爪を、手から発生させた氷の盾で防いでいた。

まるで水晶のようにきれいで、硬かった。 傷一つ入らずその爪を受け止めていた。

「ウガァアアア!!」

獣人が飛びのいて、距離をとった。

戦闘のセンスは人間よりは上らしい、野生の勘とでもいうのだろうか。

「フゥ、間に合いましたね」

彼がチラッと振り返り、私を見た。

それは緊張した顔じゃなく、笑顔だった、安堵からきたものか…

けど、以前の彼と決定的に違うもの、それは身にまとう魔力の質。

邪悪な魔力を帯びている…?

「貴方…どうしてまたここに! どうやって?」

 ガキィィン!!

喰らいついてくる獣人の爪牙を、氷の盾でさばきながら、平然と彼は喋っている。

「ちょっと、、、記憶が戻ったと同時にできるようになったんですよ、ヘヘヘ」

“フレアバースト”

左手を突き出した瞬間、一瞬にして魔力が球を描き、高速にとんでゆく。

しかし、それを大きく横っ飛びすることで獣人はかろうじてかわして見せた。

「グルルルルルァア!!」
大きく爪を振り上げて、人知を超えた速度で走ってくる。

「シリウス、またくるわよ!」

「任しといて、まだ終わってないよッ!」
そういって、左手を大きく引き寄せた。

すると…、過ぎ去っていった巨大な火球が旋回して、後ろから…

 ドゴオオオン!!

火球は背中から獣人に炸裂して、爆発した。

獣の咆哮と、熱風が私たちにたたきつけられる。

いや、シリウスがはった魔法障壁が私にそれが直接当たらないようにガードしている。

 すごい…! まるで別人みたいに強いわ、シリウス。

もはや、爆発の中心は黒い煙がもうもうとふきだしていた、肉のこげるようなにおいと共に。

「やっと、ティアさんを守れるような存在に、なったかな?」
彼は、私に向き合いながらマジメな表情でそういった。

「えぇ。 貴方になら身を委ねられるわ。」
ほんとに優しい表情になっていたとおもう。

多分私が一番女の子らしい顔をした時。

「よかった。 さぁ、かえりましょう。」
私を抱き上げようとした、そのときだった。

 ガルァアアアアアアアア!!

いままでで一番の咆哮を響かせ、やつは立ち上がった。

全身の半分以上は火炎で焼け焦げながらも、
それでもこちらへ爪牙を突き出し走ってくる。

「さっきので、倒れてくれれば楽に逝けたのに…。 ごめんよ。」
彼は、迫ってくる獣人に、右手を突き出した。

“ファイアーストー…

 ドゴン!!

突然、獣人が後方へ吹き飛ばされた。

かすかに揺れるショートな青い髪。

「「リルム!」」
私たちは同時に叫んでいた。

「危なかった、何とか間に合ったね」

「みんないるの?」

「もちろ…、あ、またくるよ!」

「後は俺に任せろ!」

とつぜん、声がしたほうへ振り返った。

黒い影が、獣人へ突進していく。 手にもつ剣の光が残像として映る。

そして、それらは交差して…止まった。

 ブシュッ、バラバラバラ…

ヘブンの剣で、獣人の体は賽よりも小さく、ばらばらに分断された。

地面に崩れゆき、届く前に煙と消える。

今、獣人は完全に消滅した。

パチィン、彼は剣を背中におさめ、こちらへもどってきた。

「ヘブン!!」

「みんな、無事だった。 よかった。」

ヘブンがみんなを見回した。

覆面で隠され、表情はよく見えないが、安堵の表情を浮かべているだろう。

「重傷者がひとりいま〜す!」

「アイタタッ、もっと優しく治癒してよね…」

クロスが、ティアに治癒の力を当てて傷を直している。

「みんな無事でほんとよかったぁ〜、ところでティアとシリウス。
手なんてつないじゃって、仲良しになったね〜」

リルムにつっこまれて、いっせいに視線が二人にあつまる。

「あ…これはですね…」
「ね、ねぇ、シリウス。」

急いで手を離し、なんにもないふりをしたが…

「ふ〜ん、まぁ、ずっと二人きりじゃね〜ニヤニヤ」

「ティアにもついに!? 女だったのか、おまえ!」

「…よい事だ。」

・・・もはやすっかり認定されてしまったようだ。