第十二話〜継承〜



全てが凍りついたように眠るミルレスの町。

そこに、ある民家から真昼のごとき激しい光が溢れている。

「なっ…」
男が、光にひるんだ隙に、私はその光の元へはしった。

 グッ…

重みのある、冷たい何かが、私の手に触れる。 

それはすごく大きい剣の柄。

私はそれを一気に壁の金具から引き剥がし、両手でもった。

激しい光を発するそれは、私の手の元へくると、光は徐々におさまっていった。

また、部屋に夜の闇がもどってきて、影が二つ、狭い部屋の壁にうつしだされた。

「…それが“セルティアル”かって創造の力を持つものが創ったといわれる武具、ククク」
          
うっ…、重い…。

両手で持つそれを、ついに支えきれなくなり、刃先が床に着いた。

 サクッ

まるで豆腐か何かでも切るかのように、剣の刃先は床を貫通した。

「ククク、やはり貴様では宝の持ち腐れ、渡してもらおう、ククク」
無様な私を見て、男が近寄ってくる。

「うるさぁあああい!!」

私は、全力を込めてそれを振りきった。

足をなぎ払うかのような一閃。

う…、腕がおかしくなりそう…。

 シュン、男はそれを軽く跳躍することでかわした。

 ガキィイイン!!

手が離れてしまった剣が、男の足元の地面を滑った。

「あ…!!」
痛む両肩をおさえながら、私は取りに走った。

 ドゴッ!!

「っ…」
男の蹴りが、私を吹き飛ばす。

う…、もろにはいった…。 やばい、とられちゃう。

地面にうずくまる私に、男の笑みが見えたような気がした。

「ククク…、やはり持つべきものが持たねば…」

その男は、剣に手を伸ばした。 その時・・・

 バチチチチチチ!!

「ぐわっ!」
剣全体が、さっきの様にまばゆい光を発っしたかとおもうと、男の手は弾き返された。

剣が、男を拒んでいる…。

「ぐ、ばかな…、何故小娘ににぎれて、我にはにげらないのだ…」
驚愕の表情をうかべ、その剣をにらめつけている。

「それは…、その剣が持ち主を選ぶからよ…」
私は壁に手を置いて、ヨロヨロと立ち上がった。

少なくても救いなのは、男があれを使えないこと。

あんな奴に…パパの剣を渡しちゃいけない!

「ククク、何を言い出すと思えば、
我よりお前のようなろくに振れもしない小娘を主とするというのか?」
男の耳障りな高笑いが、私の耳に届く。

「…それが、事実よ ハァアアア!!」
私は素手で殴りかかった。

修道士顔負けの速度の拳が、男のフードで隠された横顔を捉える。

 パシッ

なんなく、その男は私の拳を受け止め、ひきよせる。

そして、その腕が私の首元を掴んだ…。

私は男の前に吊り上げられた。

 く、苦しい…息が…。

もがく私をさらに高く上げながら、男は笑っている。

「ククク…、やはり貴様。死んでおくか?
ガキの手がかりくらい、探せばいくらでも見つかろう」

…冗談じゃない。 私はまだ死ぬわけにはいかないわよ!

私の最後の力を振り絞り、蹴りを繰り出した。

 ガッツ!!

油断しきっていた男の口にあたった。 一本の歯が折れて吹き飛んだ。

私は首を掴んでいた手が緩んだ瞬間、地面におりたち、セルティアルを拾う。

「小娘…きさまぁあああ!! 死んで償え!!」
男から強烈な殺気と、圧倒的なオーラによるプレッシャーが私にのしかかってくる。

…きれたわね、完璧に殺す気マンマンって感じ?

…力を貸しなさい、“セルティアル”


 ナンヂ…何ノ為ニ力ヲ望ム…?


また、私の中に声が響く。

何のため…? 決まってるじゃない。

 ママと、ママの大切なパパの形見を守り抜くためよ!


 時トシテ、強大ナル力ハ守ルベキ者ヲモ傷ツケルゾ?


…そうかもしれないわ、

 けど、この剣と、私を失ったら…ママはどう生きていけというの!?

私が、ここであいつをたおすしかないじゃない…!


 …ヨカロウ、ソノ覚悟、我ヲ所有スルニ相応シイ。 


 バァアアア!!

「!?」

セルティアルを取り巻く光が、さらに強く、そして激しくなる。

うっ…体中から魔力を吸い取られる…

また、剣を落としそうになる腕を、根性でもちあげる。

こんどこそ…、あの男を倒せる力を…!

「うらぁああ!! くたばれ小娘!!」

男が超高速で大剣をふりだしてきた。

眼にもとまらない…ただ、音だけが徐々に私に近づいてくる・・・

「いっけぇえええ!!」
私は、眼を閉じ、渾身の力で剣を振り下ろした。

 カッ!! ドゴォォォォォォォォォォォ!!

その瞬間、閉じた眼のうちにも、真っ白な光がみえたとおもうと…。

轟音がなり響き、爆風で私は壁に叩きつけられた。

「ウッ…」

おそるおそる眼を開けると…。

目の前にあったのは、夜のミルレスの風景。

・・・うそっ!? 家が半分吹き飛んだ。

その部屋から向こうへ、家は完全に消し飛んでいた。

「ぐぅうう」

向かいの家、リルムの家の二階の壁に、その男がめり込んでいた。

それも、全身のいたるところが切り刻まれ、血が吹き出ている。

手に持っていた雷槌“ミョルニル”は、地面に突き刺さっている。

「ククク…、それがその剣の力か…、絶対、いつか奪ってやる、ククク」
男は、空間に消え入るように溶けていった。

 バタッ

私は、男がいなくなったのを見届けると、その場に倒れ、意識が薄れていった。