第十一話〜凍りついた町〜



ティアとヘブンが合う、少し前。

ルアス、酒場。

「うう〜ん」

薄暗い酒場の松明の光のなか、うめき声をあけながら、クロスが起き上がった。

 ?両手がカウンターをおもいっきりおもり、?

※編集不可能

鉛のように重く、ふらふらした体を何とか立たせた。

 ウッ…激しい吐き気がする。

「っっっ、飲み過ぎた。おい、リルム、シリウス」
彼は、隣で同じように顔を伏せている二人を揺さぶる。

「…、あ、おはよ〜、うっ…」
相当きつそうなリルム。

蒼いミディアムヘアーが崩れて、所々はねている。

「…あれ!? 僕はいったい何を?」
驚いた様子で回りを見回す彼。

一杯でぶっ倒れたシリウス。そのうえ覚えもないとは、たちが悪い…

「もうこんな時間だ…、帰るぞ」
3人でフラフラしながらも酒場から出て行く。

酒場からの笑い声に送られて、夜の空気が気持ちいい外へ…。

「あれ…ティアがいないじゃな〜い」
寝ぼけたような声のリルム。

「あ…ほんまや、けど、あの子は酔ってもないからすぐゲートでもどるだろ、いくぞ」
クロスは懐から、一巻きの紙を取り出し、舗装された道路に押し付ける。
 
パァアアア!!

魔方陣が展開し、三人をまぶしい光が包みこむ。
眼を開けたときには、そこはミルレスの町だった。

「かえってきたな、とりあえず本部に…」

 ギィ、

見慣れた本部の扉を開け、受付に…、受付が眠りこけてる。

「おいおい、おっちゃん、こんなところでねちゃ…   うっ」

 なんだ…この強烈な眠気は…。

 ドサッ。

3人とも、その場に倒れこむように眠ってしまった。

ただ動くものは風に揺られた神木の梢の影のみ…

いや、全ての町人、動物、
そして虫にいたるまで、全てが凍りついたように眠っている!

  シュウウウ!!

夜のミルレスの街角に突如、魔方陣が形成されたかと思うと、
中から光に包まれた女の子が出てきた。

紅く長い髪が、光に包まれ輝いている。

「ふぅ…、散々な一日ね、今日は。」
私は夜のミルレスの町を見回した。

時間が時間だけに、どの家からも光が漏れていない。
ところが、私は次の瞬間、いやな予感がよぎった。

 あ、あれ…、人の足?! まさか・・

 ダッ、彼女はその場へ走り寄った。

男の人が、そこに倒れている。

私は、彼の口に耳を寄せる。

zzz〜、いびきが聞こえる。

 つまり、路上で寝てるだけ!

なんて人騒がせな人なの…

「起きてください!、風邪ひきますよ、こんな所で寝ちゃ!!」

しかし、いくらゆすっても起きる気配がない。

…おかしい、まるで魔法にでもかけられたかのように…。

なにか、この町全体に違和感を感じる。

とりあえず、近くの住居にこの男の人をはこびこんだ。

その家に住人は、食卓で御飯を食べかけのまま、
四人が椅子からずり落ちそうになりながら寝ている。

「一体なにがあったっていうの…」

その時、

 ズゥゥゥゥゥ

「!?」
夜の空気を震わせて、魔力の波動を感じる。

近い…、何かがいるわ。

私は、その魔力の発生源にへと沈黙が支配するミルレスの町を走り出した。

あ…、あそこの家、あそこの家から感じる! って、私の家!?

 バンッ!!

勢いよく、私は自分の家の扉を開いた。
台所のところに…ママが倒れていて…

居間に、誰かがいた。
先ほどあった男達と同じ服装。

顔は見えないが、黒いマントに深いフード、そして手には…

「なっ、それはミニョニル!!」
私はつい、叫んでしまった。

“ミニョニル”…、

大戦時、ママ、ミレィが使った魔道武具、振れば稲妻を発生させる槌…。 

それをなぜ!?

「…まだ動ける奴がいるとは。 ククク」

窓から入る月明かりに照らされ、男の口が笑みを作るのを見た。

「どうゆうつもり? 町をおかしくさせて、そんなもの盗もうとなんてして…!!」
私は、ロングソードを男へ向けて構える。

磨かれ、煌く刀身が、不気味な男の姿を映し出す。

「ククク…我等の目的は二つ。
 逃がした少年の確保と、大戦時につくられた魔道武具の確保
  町には魔法がかかっている。 時を止める魔法がな…ククク」

深淵のそこから響くような、深くて邪悪な声…。

「なっ!? そんなもの集めて一体何をするきよ!?」
私の怒声が響く。

「ククク… 世界を変える、そう言っておこうか。」
男が、一歩一歩近づいてくる。

          世界を変える…?

「ふざけてんじゃないわよ!! 貴方みたいな泥棒、私が斬ってすてる!」

「はぁああ!!」
私は両手でロングソードの柄を持ち、一気に走り出した。

刀身にまとわりつくオーラが、炎へと姿をかえる。
 燃える炎が、暗い家を照らし出す。

“フレイムスラッシュ!”

 ガンッ!!

金属音が響く。

男も、見たこともない太くて大きい片刃の大剣でうけてめていた。

黄銅色をした刀身に、古代文字で何かが書かれた刃。

それが、私の剣と衝突し拮抗しあっている。

「っううう!!」

 バリィィン!!

お皿の割れる音が響いた。
私は吹き飛ばされ、食卓をひっくり返した。

「あぅ…」

うっ…、背中を強打した…。

「ククク…、弱いな。 それが英雄の血を引き継ぐものか? ククク」

…この男、さっきのやつと同等ね。

何で今日はこんな化け物ばかり似合うのよ…。

でも、まけられない!

 スタッ、勢いよく立ち上がり。そのまま走りこんだ。

刃をあわせたら力で負ける…それならば…!

 ブンッ!!

男から、すごく力のこもった、重量感のある一撃が放たれた。

それを私は身を低くして、かわす。

かわし損ねた髪の毛の先端が少し宙に舞った。

そして男の懐に飛び込んだ瞬間!

 “燕返し”

高速でうなる剣が、男の腹を捕らえて放たれる。
身を引くことでかわす男、しかし、剣の威力はまだ死んでいない!

剣先を、おもいっきり逆方向に切り返し、遠心力をつけた2発目。
至近距離から確実に頭をとらえた斬撃がはなたれた。

 あの、大きな剣を高速でもどすことなんて不可能…いっけええええ!!

剣が男を両断するべく振り下ろされる。

 キィィィィン!!

耳がおかしくなるような鋭く高い音が響いた。しかし音の源は私の剣。

「え…?」
男は、腕で剣を受け止め、そしてその勢いで剣を砕いた。

砕けた破片が当たりに降り注ぐ。

折れた剣を、私は呆然と見ていた。

 ドゴッ!!

「うっ…」
私は腹部に激痛を感じ、また宙を舞った。

尻餅をついた隣に、ママの顔が見えた。

 このままじゃ殺される…、ママを連れて逃げなきゃ。

「ククク、殺しはしない、 お前は手がかりだからな、あのガキの。」

…また、シリウスを狙うもの…?!

何で彼は狙われてるのよ。

「それに…もう一つの魔道武具。
大剣“セルティアル”のありか、はいてもらおうか…ククク」

セルティアル…パパが使ったといわれる大きな剣。

主を選ぶ刀で、彼以外つかえないといわれる…。

 冗談じゃないわよ、あれはパパの形見、ママにとって一番大切なものじゃない!

「・・・ことわるわよ。 ハッ!!」
私はママの肩を担いで立ち上がり、椅子を男にけりつけた。

剣で椅子を微塵に切り裂く男。

しかしその隙に、私は二階へとママを担いで逃げ込んだ。

トン、トン、トン

確実に、足音は近づいてくる。
私たちの、隠れている部屋まで。

どうしよう…武器なんてもうないわね。あったとしても敵わないだろうけど…。

ギィィィ

ドアが、ゆっくりと開いた。
“深い影”が、私とママを見下ろしている。

「…チェックメイトだな、ククク。 さぁ、はいてもらおう。」
男の手の持つ大剣が、私の首元に当てられる。

薄く皮が裂け、一筋の血がながれでていた。

ここまでかな…、私と剣を差し出せばママは助かる…。

「わかっ… え!?」

「なっ!?」

部屋が突然、まばゆい光に包まれる。

そう、それは壁の一部、セルティアルが置いてあるところから。

真昼のごとき明るさに、二人はひるんだ。

驚愕した私の頭に突然、声が響いた気がした。



  ナンヂ…我ヲ持ツ資格ガアルカ試サシテヤロウ、我ヲ永キ眠リカラ解キ放テ…







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