第九話〜不吉な影〜



翌日、アスク帝国王宮ルアス城。

前回の大戦で、唯一被害が少なかった町であり、豪華な城も健在である。

今、4人はその大廊下、人事課の部屋からでてきた。

「・・・結局、とりあってもらえなかったね…」

あ〜、ほんと腹がたつ! そんなこと自分で捜し歩けですって〜

あのはげ頭の長官め…

そう、私たちは今朝、ルアス王宮の人事課へきていた。

しかし、そこのふとっちょな長官は…話を聞いてくれさえしなかった。

「あぁ…、こりゃあまいったな。」
頭を抱えながら、深刻な表情のクロスがうめく。

「どうしよ〜、これから。シリウスの記憶がもどればはやいんだけどぉ」
シリウスの頭をこつきながらいうリルム。

「あ、すみません…」
俯くシリウス。

ったく、不思議な人ね〜、
最後の魔法、見たことない位強力だったのに、
こうしてみるとほんとに初級者ぐらいの魔力しか感じない。

 なんだったのかしら…

「ほぉ、珍しい、そこにいるのはレヴンと騎士団長の娘どもではないか。」

廊下の向こうから、不意にそんな声が聞こえた。

ふりむくと、そこには…

豪華な装飾がされた服を着て、
最高級の質の金色のマント、そしてあたまにかがやく王冠…

まだ若い顔に、すこしひげをはやしている。 

あの人は…!!

「へっ、ザックス陛下!?」

私達3人は慌てて敬礼し、きょとんとしているシリウスにもむりやり敬礼させた。

「ははは、そんなに硬くなるな、この国の恩人の子供ではないか。
 して、今日はこの王宮になんのようが? 騎士団長にでもあいにきたか?」

そう、リルムのパパのスルトさんも王宮勤務している。


「い、いえ…実は、昨日、このシリウスという名の記憶喪失者を保護したんですが…
身元も何もわからないので、人事課にしらべてもらおうと来たのでございます。
しかし、長官に拒否されてしまいまして…。」

しどろもどろしながら、中途半端にできてない敬語で喋るクロス。

普段は、誰に対してもタメ口、あまり礼儀はいいほうではないからなぁ…

ちょっとは勉強するべきね。

「ほぉ…、それは…人事課の長官ねぇ、よし、ついてこいおまえら。」
そういって率先してあるく陛下の後ろを、私達もついていった。

「おい、人事課長官!」

 ドンッ!!

人事課のドアが勢いよくあけられ、ザックスの声が響く。

「へ、陛下! なにかごようでしょうか?」

まさにヘビに睨まれたかえる。

でぶでぶな全身から冷や汗が噴出している。

「国民の身元を調べるのもおまえらの仕事だろろうが!追い返すとは何事だ。」
王が、そのふとっちょの人事官長をにらめつける。

「ヒィィィィ、すみません、しらべます、今すぐにでもっ!」
土下座しながらペコペコあやまる長官。

「えへへへ、いい気味ね、あいつ、」
となりで、リルムがガッポーズをしている。

確かに…清々するわね♪ あのオヤジの顔… 天罰よ天罰。

「これで、少しはまともに動こう、早く身元が見つかるといいな、では、さらばだ」

「ありがとうございます! 陛下。」
ザックスは私達に少し笑いかけ、背を向けて去って言った。

「あ〜、びっくりしたぜ」
汗を拭きながらクロスがいう。

「いいじゃん、いい国王様だよね〜これでシリウスの身元もはっきりするし」
ニコニコしながらいうリルム。

「よ〜し、せっかくルアスまで来たんだ、市場とかでなんか見て行こうか」
私達は、王宮を去り、町へと散っていった。


ルアス広場、ここには多くの露天商がならび、活気ある商売が行われる場所。
その中をキョロキョロしながら、4人組が歩いている。

「あ、あれいいんじゃない?ティア。 似合いそうよ〜、フフフ」
私の肩に手を置きながら、露天商の売る一つの帽子をさして言うリルム。

・・・よく言うわよ、私にあんなピンクの帽子勧めるなんて。

 似合わないこと間違いなし。

自分で言うのもなんだけど…
あんまり女の子が欲しがるようにかわいいもの、っていうのには興味ない。

…実用性が一番じゃない。

「ハハハ、ティアにジャグルヘダー?アメットでも被ってるほうがまだ…いてて!」
苦しそうに顔をゆがめるクロスの腹には、私の拳が鳩尾に的確にヒットしていた。

…うるさいわねぇ。

「あわわ…」
おどろいた表情のシリウス。

「まぁ、シリウス、気にしちゃだめよ、こんなやり取りしょっちゅうだから」
笑いながら説明するリルム。

・・・誰かさんたちが私をおちょくるからでしょうが!


ルアス広場、建物の影。
そこにはさらに深い影二つ、4人の様子を見ていた。

「…ついに見つけたな、間違いない、あのガキだ。」

背の高いほうの男が話す。

全身を漆黒のマントでつつみ、深いフードをかぶる。
まさに夜の闇の影が、そのままでてきたような感じ。

「へぇ…じゃあ一仕事行きますかぁ?」
もう一人の男が、マントの隅から、鋭い爪のついたナックルをちらっとみせた。

「・・・ここは人が多すぎるな、騒ぎにしたくない、見張る。
 それとあいつにも連絡入れておけ」

「はいはい、わかりましたよ。」

彼らはいったい…?

そして何を企んでいるのか…その真実が、もうすぐ明らかになる。


王都ルアスに、眠りの夜がくる。

一人の女が、町の酒場からでてきた。

赤色のロングヘアーが、夜の冷たい風に舞う。

 ふぅ…クロスといい、リルムといい…飲みすぎよ!

 おまけにシリウスまで1杯で倒れるし…。

そう、ティア達は夜、酒場により酒を飲んでいた。

…いや、本来飲めるのはクロスだけだが、
気がついたらリルムとシリウスまでぶっ倒れていた。

いい風ね、ミルレスにそろそろもどらないといけないかな。

私はそんなことを考えながら、路地を酔い覚ましに歩いていた。

「ち…女一人だけだぜ? ガキがいない…」

「?!」

不意に、私は虚空から響くこえきいた。

「まぁ、いい、つかまえて割り出せばすむこと」

…もう一人。

「誰!? でてきなさい!」

私は、虚空に向かって叫んだ。

 シュトッ、シュトッ。

影が二つ、月明かりに照らされ、私の前に舞い降りた。