I WISH ・・・30 〜突撃〜


運命の日、早朝。
いつもは露店がひしめき合い、賑わうルアスの広場。

今は露店もなく、ただ巨大な魔方陣と聖職者達があつまっているだけである。

「いいか、ゴーレムが魔法を溜めているところを確認したら、一斉に魔法を暗唱する。
この魔方陣を中心にして、町全部を包むホーリィディスペルゾーンを形成するんだ。

魔方陣が魔力を高め、また、その魔法が使えなくても、
その魔法陣上の人々に魔力を供給することができる。

みんな、がんばって町を守り抜くぞ!」

緊張した顔つきをして、聖職者達が魔法陣上にあつまり、指示を待っている。

 万全を尽くした・・・、あとはリヴァルスら騎士団に賭けよう。 


朝方のすがすがしい風が、そんな雰囲気を無視して広場を過ぎている。


王宮、見張り台。
今も騎士が24時間体勢でそこに立ち、つねに監視している。

その男がいま、何かを視界に見つけた。

「報告します! 町の南より、ゴーレムが接近中です!!」

「ついに来たか・・・よし、広場の聖職者、王宮の騎士団に至急伝えろ!」

「ハッ!」

朝のまぶしい光を受けながら、
ゴーレムはその巨体をゆっくりと、しかし真っ直ぐにルアスに向けている。

爆音と振動を振りまきながら・・・ その目はルアスを凝視している。

ただ壊すためだけに創られた存在、
今その本能が“使命”を遂行しようと巨体を動かす。

─ドシン! ドシン!

その足音は確実に近づいてきて、ルアスの町全体を揺らしている。
そんな中、騎士団団長リヴァルスは、地面に槍を突き刺し静かに目を閉じていた。

 来たか・・・。

「よし、騎士団全員集合!」

「今より、正面門より出陣し、敵を打つ。
作戦はやつの体内に侵入、“核”を壊すこと、皆の武運をいのる・・・突撃だ!」

全員の顔を見ながら、ゆっくりと、力強くリヴァルスは命令を下した。

「お〜!!」

今、門より騎士団が飛び出し、
その歩くために発生する地震をものともせず、迅速にゴーレムへ向かいだした。

先頭をリヴァルスが率い、ゴーレムの足元へ直行する。

 うぉぉぉぉぉ!! ゴーレムのおこす粉塵の中へ突っ込んでいく騎士達。

 みてろよ・・・俺が打ち砕いてやる・・・!

槍を構えて、リヴァルスはゴーレムの足へ到達した瞬間、
速度を槍に上乗せし、おもいっきり突いた。

“スラストスピア!!”

ゴッ!!、大きな音がしてゴーレムの体を構成する土砂がとんだ!

ゴーレムの足に、人一人とおれそうな穴が開く。
しかしすぐ上から落ちてくる土砂にその傷跡はけされていった。

 くっ・・・これじゃあ体内に侵入なんてできねぇぞ・・・

ドスン!! 「ぎゃあああ」

誰かがゴーレムに踏み潰される。
この見通しの聞かない粉塵の中、そのうえ地震で足を足られる。

上から急に落ちてくる巨大な足をよけきるのは無理な話だ。
グズグズしていたらそれだけで全滅する!

─ドスン!!

「うわぁ!!」
衝撃波で吹き飛ばされるものの、
槍を体に突き刺すが、びくともしないゴーレム。

ゴーレムは、彼らの存在を無視しているが、
その巨体がうごくだけで、確実に騎士達にダメージは増えていく。

「うぉぉぉぉ!! “ブラストアッシュ!!”」

彼のドロイカンランスから繰り出される突きのラッシュが、大きく土砂を吹き飛ばす。

が、やはりすぐ埋まっていく・・・これの繰り返しである。

「クッ!!」
動き出す足から離れるように彼は後ろに跳躍して、粉塵の中へもどった。

「団長! 歯が立ちません!!」

「うるせぇ! 泣き言なんか言うんじゃねぇ!」
明らかに、全員の顔に焦りが見え始めた。

「!?」

揺れが止まり、粉塵が徐々に晴れていく・・・
その煙の感覚が晴れたつぎに感じたのは、吐き気を催すほど強烈なプレッシャー。

周りの空気が鼓動している!

辛うじて見えるゴーレムの口に、魔力がたまっていくのがみえる!

「やばい、魔法がいくぞぉぉぉ」


「報告!! ただいまゴーレムが魔法の発射準備をしています!」
急に、動揺がはしるルアス広場。

その魔法陣の中心で、レヴンが叫ぶ。

「おちつけ、みんな暗唱にはいるぞ・・・」

神聖なる神の力よ・・・我らに降りて我等を保護する壁となれ・・・

魔法陣の中で一斉に暗唱が始まり、白い光につつまれていく。

レヴンの隣でミレィが必死に暗唱し、一人ミラが目を閉じていのっている。

 神様・・・町を、そしてス、いや騎士団に加護を・・・

ズガァアアアアア!!

空間を切り裂くような音を立て、
ゴーレムの口から極太のレーザーが発射される。

まさに町を飲み込み、根こそぎ破壊しつくすほどの大きさと邪悪さ。

「いまだぁあああ!! 発動、“ホーリーディスペルゾーン!!”」

ルアスの町を、今、神秘的な光を放つシールがおおいつくした。
淡い光を放ちながら、それは邪悪なる魔力をまちうける。

 バリバリバババババ!!

神聖なる壁と、邪悪なる魔砲のエネルギーが拮抗しあう。

そのレーザーがあたっているところは激しい光をはなち、突風と稲妻が渦を巻く!

「ぐっ・・・みんな、がんばれ!」
魔力を大量に持っていかれる。それほど敵の魔砲の威力は大きい。

だが、それでも負けられない、町を守るため。

シュウン・・・

魔砲の紫色の光線はじょじょによわくなり、そして根元から消えていった。
同時に魔法の障壁もきえていった。

「ハァハァ」
聖職者達は魔力を大量にすわれ、息が上がっている。

 ぐ・・・よもやこれほどとは・・・

 はやくしろ、リヴァルス! スルト! 何度も耐え切れないぞ・・・


「よし、守りきったぞ!」
騎士はその光景を見て歓声を上げていた。

しかし、まだ次もある・・・

「おい! 足が止まっている今がチャンスだ! もう撃たせるな!」
リヴァルスが槍を構えながら怒鳴る。

「くらえ・・・最大威力の攻撃を・・・! “ピアシングスパイン”」

彼の神速の腕のうごきから繰り出される。
分身したようにみえる数多の槍がゴーレムの足に穴を開ける。

が、後から後から土砂が上からかぶってきてきりがない。

 ぐぅうう・・・これでもだめなのか・・・?

「ピアシングスパイン!!」

真横で声が聞こえた。
そのものの槍がリヴァルスと同じところを撃つ。

リヴァルスまでとはいかないものの、完全にそれをマスターしていた。

土砂が落ちてくるペースを徐々に上回り始めた!

「ふ・・・スルト、おまえほんとに腕を上げたな。 この技までつかうとはな・・」

人が通れるほどの穴があいた・・・
その奥は深淵に通じているかと思われるほど暗い。

「よし、いっきにはいりこむぞ! こい!」
槍を止め、一気にその穴に滑り込んだ。

すぐに穴は閉じたが、その隙に騎士7人は体内に侵入した。

「さぁ・・・ぶっこわしてやろうじゃないか。“核”ってやつを!」