I WISH ・・・23 〜暗雲〜


「おい! そこ、隊列を崩すな!」
騎士の怒声がとぶ、しかし、それは周りに大量に蠢く魔物の声に消されている。

「む、無理だ・・・、持ちこたえられません!」

「ばかやろぉ・・・俺たちがへばったら、ルアスの町はどうなるってんだよ!」

ルアス町の開閉門。そこで今、町を守るための必死の戦いが続いていた。

いくら倒しても延々と押し寄せる魔物の群れに、徐々に押され始めていた・・・

「あぁああ、崩れる・・・」

「伏せなさい! “レイン・オブ・コメット!!”」

雲を割って、大空から凄まじい熱量を帯びた隕石の雨が、
的確に魔物の群れにふりそそぐ!

凄まじい爆音と粉塵を撒き散らし、
地面は抉り取られたようなクレーターで埋め尽くされる。

魔物の群れが一瞬にして消滅した。

「あ、あなたは・・・?」驚き呆れて騎士がきいてきた。

「あ、私は王宮魔術師のレイチェルよ、それよりまだまだくるわよ、がんばって!」
そういって彼女は次の魔法の暗唱にはいった。

 死なないでよ・・・私の教え子たち・・・

持ち直した防衛前線は、なおも迫り来る魔物を叩き続ける。




「すっご〜い、ミラ!!」

「これだけやっちゃえばしばらく立てないでしょうね・・・」

「グゥゥゥ・・・貴様ぁぁぁ!」
男がよろよろと立ち上がった。

「あら・・・まだ立てるの。 
けどもう短剣も使い物にならないわよ? あなたはもう戦えない。」

たしかに、男の短剣は先ほどのミラの猛攻で、根元から砕け散っていた。

「ククク・・・俺の武器はこんなものだけじゃないぞ・・・
 小娘、貴様、たっぷり切り刻んでやる・・・」

男の体から、オーラ、いや、妖気がにじみ出る。

そして体全体が震え始める・・・

いや、周りの大気が恐れをなして震えているような・・・

「ぐぉ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ミ、ミラ、あれ!」

「!?」

ローブに隠された男の右腕が脈を打ちながら肥大化していく。
 
ビリッ!!ローブがさけ、
姿を現した右腕は・・・もはや人間のそれではなかった。

巨大にはれ上がり、硬化したぶあつい筋肉、
そして先端の指先からは死神の鎌をおもわせる爪が5本。

そして、紫色に変色した肌・・・

それは悪魔の腕のようであった。

「ククク・・・切り刻む・・・血をすすってやる・・・」

今、彼女たちにその狂気が迫る。

不意に、男が視界から消えた。

「消えた!?」

否、ただ高速に移動しただけ、
その狂気の爪が、真後ろからミラに襲い掛かる。

それに気づいたミラが、皮一枚で回避するものの、
爪が掠った服は大きく裂けていた。

「う・・・」
片手で地面を押し返し、倒れることなく攻撃態勢にもどるミラ

 こいつの動き・・・今までと比べ物にならないわ・・・

「ミラ・・・」
ミラの後ろで心配そうに見つめるミレィ。

「ククク・・・次こそは血を飲ませてもらおうか・・・
紅い、赤い血を、、クハハハハハ」

喋るたびに、強烈なプレッシャーが体にのしかかる。

体中がが危険信号をはっしている・・・ “こいつはやばい”

 私の最大奥義をもってあいつをしとめる・・・!
 それしかないみたいね・・・危険な賭けだけど・・・

体中にオーラがいきわたり、細胞が活性化する。
体から、あふれ出たオーラが渦を巻いて登る。

彼女のショートカットの蒼髪がその渦にのまれて少し逆立つ。

「うがぁああ」
男が奇声を上げて消えた。

 ・・・くる! 左!

彼女は自分の左側の虚空におもいっきり蹴りを繰り出した。

彼女の技は相手の気を感知して、動きを先読みする。

そう、筋肉の中の気の動きまで感知し、次の攻撃を予測できる。

ゴッ 鈍い音がする。

男の左腕に蹴りはあたり、骨を砕いていた。

が、男は止まらない。

いっきにミラの正面に回り込むと、5本の爪を高速で突き出してきた。

“デビル・スクラッチ!!”

彼女はそれを自ら体制を崩し、横に倒れこむことで避けるが、
男が爪を引き戻したときに、腕に裂傷を負わされた。

鮮血がにじみ出ている。

 つぅ・・・

しかし彼女も止まらない、そのまま男に隙を与えず、水面蹴りをくらわせた。

足を狙われ、そのまま倒れこむ男の後ろに、
彼女は瞬時に空間を移動してまわりこむ。

「終わりよ・・・奥義“空裂拳”」

その瞬間、彼女の両手両足が消えた、
否、眼にとまらぬ速度で攻撃を繰り出している。

男の背中、腕から鈍い音が響き続ける。
そしてその体の形さえも・・・変形していく。

この技は、修道士の基本技、正拳とキックを高速で連打するだけであるが、

鍛えられた肉体と、出だしの早い基本業の連発により、
空間をも裂くほどの威力を発揮する。

フニッシュ! 

渾身の力を込めたネリチャギが男の頭を打ちつけ、そのまま地面に叩き落した。

バッ、後ろに下がって様子を見るも、ピクリとも動かない。

「ふぅ〜」
ミラも地面に座り込んだ。

 この技は肉体に重い負担をあたえる・・・

「ミラ〜、やったね!!」
治癒の力を彼女に注ぎながら、ミレィはうれしそうな顔をしている。

「そうね・・・これでモンスターも帰っていくはず・・・」

!? 帰っていかない・・・ まだあの男いきている!?

ミラは振り返って男を叩きつけた場所を見た、が、いない!

「キャアア!!」

隣で叫び声が上がる。
ミレィが男の腕に払われ、樹木にぶつかってうずくまっている。

「ミレィ!!」
男に走りよるが、またも消えてしまう。

 !? 男の気を感じない・・・もしかして・・・気殺!?

 グチャ!! 不意に出てきた爪に背中をきりつけられた、血が噴出す。

「うっ・・・」

だがまだ気が読めない、しかしかならず男はここにいる!

「ククク・・・甘く見ていたよ、小娘、
だがもう終わりだ、すぐには殺さない・・・たっぷり弄んでから殺してやる。」

虚空から声が響く。

 グサ、ズサッ、ギリッ

「うっ、、あうっ、、っ、、」

見えない攻撃になすすでもなく、切り刻まれていく、
致命傷をあえてさけて、いたぶるつもりのようだ。

 う・・・、だめ、、、このままじゃ二人とも殺される・・・

出血のせいか、彼女は意識が朦朧としてきた・・・。


「レヴン!!、マジできりがないぞ、こいつら」
体力がもはやほとんどのこってないながらも、彼は槍を振るっていた。

「はやくいかないと・・・あいつらが心配だ」

さすがのレヴンもつかれてきている。
大魔法を使おうにも、暗唱する隙がないほど取り囲まれている。

─ピキッ  突然強烈な邪気がふたりにも伝わる。

「おい・・・これはマジでやばいぞ・・・」
レヴンにも焦りがみえる。

「レヴン、僕に風の魔法をうって! この群れを飛び越えて先に助けに行く!」

「・・・いいだろう、ミレィを頼んだぞスルト!」

“ハリケーンバイン!!”

スルトは魔法によって生まれた竜巻にのり、邪悪なる気のほうへ飛んでいった。

 スルトも行ったようだ。 これで大魔法をはなてる…、時間がないからな。

大剣、セルティアルがレヴンの魔力を吸収し異常なまでに青白い光を発する。

「一瞬で無へと帰せ。  くらえ・・・大魔法“イフリート・ロアー”」

剣を魔物の群れの上空に放り投げる。

その剣は放物線を描いて地面に突き刺さる。
次の瞬間、爆音とともに視界が紅一色に染まる。

ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

大地をも揺るがす爆発が連続してスプラッシュしていく。
まるで、炎の魔人、イフリートの咆哮が大気を振るわせ響き渡るように・・・

レヴンがセルティアルを回収したとき、
そこには魔物はおろか、草木一本はえぬ平たんな焼け野原が広がっていた。

その中をレヴンは駆けていく。

 無事でいろよ・・・みんな!