I WISH ・・・22 〜始動〜


ルアスの町へ、また日が昇る。
新しい一日の始まり・・・

レイチェルの家ではいつもの4人と、
昨日新たに同居人に加わったミラが一緒に家から出て来た。

「じゃあ、私は王宮にお勤めに行くから・・・、
お昼御飯はちゃんと作って食べるのよ〜」

22歳にしてこのセリフ・・・もはや主婦を通り越して母代わりである。

「は〜い、今日はみんなどこいく??」
4人は広場のほうへ歩きながら話している。

「・・・私はどこでも・・・」
まだあまり馴染めていないのか、俯きながら喋るミラ。

「ん〜今日は僕も非番だし、久々にどこか楽しい所へ〜・・・ルケシオンに海水浴!」

「・・・魂胆が見え見えだぞ、スルト」
最近、つっこむことに目覚めてきたレヴン。

「うっ・・・ たまにはいいじゃんか〜、最近水着もみてないし・・・」

「ぁはは、も〜スルトわ〜」

平和そのものな会話していたが、
次の瞬間、スルトの魂胆、いや平和も崩れ去る・・・

「だれか〜、聖職者様はいませんか〜、子供が、子供が〜!!」
悲痛に助けを訴える女の声がきこえてきた。

「!?  いこう!」

声のするほうにいってみると、小さな少年が血だらけで倒れていた。

急いで駆け寄り、治癒の力を送り込み始めるミレィ。

「・・・これはひどいわ・・・、いったい何処でこんな目に・・・?」

「それが・・・いつもどおり、モスがいる草原に出かけていったらしいのですが・・・
気がついたときには血だらけで倒れていたそうです・・・」
暗い顔をしてその母親が語っている。

「う・・・」
治癒の力で傷が治って、少年の目がひらいた。

「坊や! よかった目が覚めて・・・」 
少年にすがって母親がうれし泣きをしていた。

「・・・ガ・・・じゃなくて坊や、君は何におそわれたんだ?」
落ち着いてきたところで、レヴンがそのこに尋ねた。

「わからない・・・見たことないモンスターがいきなり集団で・・・
 けど、その後ろに男の人の姿が見えた気がするの・・・」

「!? ありがとう、俺たちがいってみてきます。」
レヴンはそういいって駆け出した。

「ち、海水浴はお預けだな〜、市民の害になるモンスター退治も騎士団のつとめ!」

「うん・・・ほんとに誰かが操ってるのだとしたら・・・許せない。」

4人は、ルアスの町の出口まで急いだ。

「な、なんだこれは・・・」

ルアスの出口に着いたとき、そこは地獄と化していた。
大勢の傷をおって人が寝かされており、何人もの聖職者が治療に当たっていた。

中には重症な人も見える・・・

「これは・・・どういうことです?」

「わからないわ・・・急にモンスターの群れに襲われたって・・・」
そのうちの一人の聖職者に尋ねる。

「急ごう!」

「まって、貴方たちも危ないわよ、
入り口は騎士団がなんとかくいとめているけど、
外はモンスターであふれているらしいわよ」

「大丈夫、いって元凶を立ちます」


ルアス門前、ふだんなら、大勢の子供や、それの親や師弟でにぎわう場所。

しかし今、そこは地獄になっている。

 
 ブラストアッシュ!!

高速で繰り出される槍は、迫り来る魔物の群れをうちくだく、が、数がおおすぎる!

「くそう・・・きりがねぇ・・・、何でこんなところにこんなモンスターが・・・」

普段、低級モンスターしかいないここに、
今はノカン族、カプリコ族、

そして後ろのほうには、
スオミの洞窟のなかからはいでてきたような魔物の姿も見える。

「ヴァルス、これはどうなってるんだ!?」
同僚の騎士に、スルトが尋ねる。

「わからん・・・、今は騎士団と、強い人たちが集まって、
なんとか門にはいれないようにしてるが・・・」

グチャ! 

ノカンの頭に槍を突き刺しながら、
困惑したような表情の騎士がこたえてくれた。

見ると、騎士の外にも幾人かの冒険者が、
モンスターを町に入れまいとがんばっている。

「みろ・・・このモンスターども、目つきがおかしい、とち狂ってやがる!」

どのモンスターの目にも、本来のものにはない、怪しい紫色の光が満ちている・・・

「俺たちは、目撃情報があった。これを操っているとみえる男をさがしにいく」

「みんな、気合いれていくぞ!」

「うん!止めるよこいつら」

「うん・・・」

 一刀剣術 「衝波」!!

レヴンが剣を横に振り切った瞬間、
巨大な衝撃波の波が轟音とともにモンスターを巻き込んでいく。

ドォォォォォ!!

衝撃波で大量のモンスターを一撃で消していくレヴン。

横からくるモンスターを槍でしとめていくスルト。

真ん中で治癒の魔法を唱えるミレィ。

それを逃れて近づいてきた敵を、
女の子とは思えない威力の体技で止めを刺すミラ。

今、4人は魔物の群れにつっこんでいった。



王宮、王の間。

「陛下、異常事態です! 国中でモンスターが群れを成して暴れております。
どれもが妖しい眼光をしていて、
通常よりもはるかに高い戦闘能力と凶暴さをもっているとのこと!」

「なに・・・状況はどおなっている?」

「ただいま、スオミの魔術師団とモンスターが交戦中、
サラセン、ルケシオンにも魔物があふれているという情報も…」

「よし、全騎士を出動させて事態を鎮圧しろ、
ただし、深入りするな、町の周りだけでもいい」

 これは・・・ガルフラントの仕業か・・・?

 ついに仕掛けてきたか・・・が! たかがモンスターでこの国を落とせると思うな。



ザシュン!!

首を剣でふっとばされ、大きな丸太を抱えたノカン、ウッドノカンが地面に倒れた。
だが、後から後から、紫色の眼光を妖しく光らせ、モンスターはおしよせてくる。

「ちぃ・・・これじゃあその男を捜すどころか、群れにのまれちまう・・・」
槍で手当たり次第に突き殺しながら、スルトがうめく。

体力も消耗し、モンスターの攻撃もくらい続ける戦いは、
4人にとってもつらいものだった。

「大丈夫? ミラ!」

彼女にリカバリィをかけながら、ミレィも杖でモンスターをなぎ払っている。

「まだ・・・大丈夫・・・ エイッ!!」

彼女の拳が、近づいてきたポンポンの頭にあたり、
パシャッという音とともに崩れ落ちる。

「あ、ミレィ!! あれ!」

彼女は見た、林の木々間からのぞく男の目を。

「あっ、あいつ・・・ あそこに男がいるよ!」

ミラとミレィは魔物を蹴散らせながら男へ向かって走った。

「まて! ミラ! ミレィ!」
スルトとレヴンが遅れて走り出すが、
大群のモンスターに阻まれて彼女たちに追いつけない。

「くそぉぉぉ、邪魔するんじゃねぇ!!」

「無事でいろよ・・・ミレィ・・・」

レヴンとスルトは、背中合わせになりながら、近寄る魔物をけしていく。



「まちなさい! そこの男!」

ミレィとミラは、男のと対峙していた・・・

「フン、現代人の小娘が・・・
よく我が術のかかったモンスターの群れを超えてここまできたものだ・・・」

頭からすっぽりと漆黒のローブを着た男・・・、彼の瞳には怪しい紫色に光っている。

「このモンスター、あやつっているのはやっぱりあなたね!」

「いかにも・・・ここだけではない、マイソシア大陸全土の魔物を操れる。」

「なぜ・・・なんでそんなことを!」
ミレィが怒りをあらわにして叫んだ。

「我が主・・・ガルフラント様のためだ、
あのお方がマイソシアを支配するべきお方だ!」

「やっぱり・・・あいつのせいなのね!、 
あなたも・・・私たちの時代のひとじゃないってことね?」

「フフ・・・俺は永遠と思われる時間を彷徨っているところを、
あの方にすくっていただいた、おかげでまた人を殺す快楽が味わえる・・・」

「サイッテーな男ね、私たちがあなたを倒す!」

「覚悟してください・・・」怒りの目を向けるミラ。

「フ・・・生意気な小娘が・・・力の差、おもいしらせてやろう・・・」

ブンッ!!

ミラの拳が猛スピードで男へ突っ込んだ。
それを難なく後退してかわす男、ローブの中から片手をだすと、
そこには禍々しいオーラをはなつ短剣がにぎられていた。

男は軽い身のこなしで、高速でミラに近づき、短剣を突き出した。

 さけれるっ、

短剣の軌道をよみきって、体の重心をずらし、カウンターをいれにいったミラ。

が、短剣からにじみ出るオーラが黒い腕となり、彼女の肩を掴んだ。
彼女の体が数本の腕で固定され、動きが取れなくなった。

「!?」

 グサッ!!

「あぅっ・・・・」
彼女の肩から、鮮血が噴出していた。

「ククク、久しぶりの女の血はうめぇな・・・」
短剣の刀身を長い舌でなめつつ、男がこちらを見下した目で見ている。

「ミラ!! リカバリィ!!」

ミラの体を癒しの光が包み、徐々に傷がふさがっていく。

「ありがと、ミレィ・・・」

 許さないわよ・・・この変体男・・・

プチッ 彼女の中でなにかがきれた。

「ククク、女 俺の剣からはにげれん・・・
この「ブードゥーハプン」からはな・・・ククク、」

「あら? そんな姑息な技だけで私に勝ったつもり? 笑わせないでよ」
先ほどの自信なさそうな顔とはうってかわって、挑発的な言葉を投げかけるミラ。

「あら・・・ミラってきれるとこわいのよね・・・」

「姑息だと・・・? 
小娘、貴様は何もできずに俺に切り刻まれるのみだ・・・ククク」

今度は男からしかけてきた、ものすごい速さでつっこんでくる。

短剣からあふれたオーラが、邪悪なる死人の腕をおもわせる腕をつくりだす。

 腕が三本・・・狙いは左右と左下!

腕が標的の彼女を捉えた瞬間、彼女は瞬時に上に跳躍した。
腕もそれをおって上へのびてくる。

捕まる…と思われた瞬間!
彼女はその一本の腕をつかんで、思いっきり手前に引き寄せた。

反動で高速に男に近づく・・・

 ドゴッ!!

鈍い音が響いた。 彼女の正拳が男の頬に直撃した。

「ぐは・・・」

男は後ろへおもいっきり飛ばされた、が、地面つくことはなかった。

 マシンガンキック!!

瞬間移動したようにとばした男の前に回りこみ、
フードに隠れた男の後頭部に蹴撃を連打した。

こんどは宙に高く舞いあがる男の体。

 止めよ・・・、炎の拳!!

拳に取り巻くオーラが炎へと姿を変え、拳にまとわりつく、
ゆっくりと落ちてくる男の正面から拳のラッシュを叩き込んだ。

男はそのまま吹っ飛んでいき、後ろにあった樹木におもいっきり叩きつけられた。