WILD CRUSHERS 〜正義の真価〜 先日雪が降ったのにもかかわらず、もう初春の風が吹き始めている。 そんなルアスに、気持ちの良い小さな嵐がやってきた。 事の始まりはルアス民家。 言わずと知れた極悪盗賊の家で、いつものように口論が繰り広げられていた。 「うちにそんな大金あるわけないだろ…」 言いながら、テーブルに肘をついて、片手で顔を半分多うジャック。 ハーレーがそろそろレベル10になる。 聖職者がレベル10になる。 これが何を意味するかわかるだろうか。 そう、かの有名なぼったくりスペルブック、プレイアの事である。 「ただでさえ人数が増えてやり繰りが大変になってるんだ」 情けないことは百も承知でぼやくジャック。 それに加え、ポチョムキンの装備品にかかった金額はバカにならないものがある。 現在の稼ぎでは到底買えないという事は、火を見るよりも明らかだ。 「お前・・・最近完全に主婦だな」 一方、経済運営には全く呑気なシーザー。 「実家に帰らせて頂きます」 バンッとテーブルに両手をついて立ち上がり、荷造りを始めるジャック。 すると、シーザーは慌てふためいた。 「待てッ!俺が悪かったッ!」 こうなっては完全に夫婦だ。 「だいたいお前、実家なんかあるのかよ」 「言ってなかったか? ちゃんとある」 シーザーは絶句した。 まじかい・・・ッ。 「まさか・・・お前家出してきたとか?」 ぴた・・・とジャックの手が止まる。 「すると思うか?「俺」が」 いや、家にいられないなんて、よほどの理由がない限りあり得ない。 この合理主義で感情より理性を優先させる男が、 そう簡単に家出などと言う馬鹿馬鹿しい事はするまい。 「・・・思わない」 ジャックはそれを聞くと、全身の空気がなくなるような大きなため息をついて椅子に座り直した。 黙って酒を注ぐシーザー。 透明のグラスに注がれていく琥珀色の液体を、テーブルの上で見つめるポチョムキン。 「まだ昼だ」 と、ジャックも言ったものの、さほどとがめる様子もなく、自分のグラスを受け取った。 「帰るんじゃなかったのか?」 冷めた口調で言って、グラスを一気に空ける。 「やめた。帰っても・・・もう、あそこには誰もいない」 そう言ってジャックも一気にグラスを空けた。 「いっそ・・・・・・盗りに行くか?」 と、シーザーが言った。先程のプレイアの話である。 「獲りに?」 「いや、盗りに・・・・・・」 つまり、敵からのドロップではなく、他の人から・・・という意味だ。 確かにそれはジャックも考えなかったわけではない。 実際プレイアぐらいなら、紙くずくらいにしか思っていない高レベルの金持ちがごろごろいる。 もともと彼らの本職は盗賊なのだから、盗るのが仕事なのだが・・・・・・。 「近いうちに、トレジャーハントにでも行こう。今は、盗る気にはなれない」 「・・・・・・了解」 シーザーとしては少し不思議だったが、 彼もトレジャーハントは好きだったので素直に了承した。 「だいたい金がないのはお前さんが無駄に酒ばっか飲む所為じゃないのか」 「燃料だからな。酒代は必要経費だ」 「そういう台詞は補給した燃料分働いてからにして貰おう」 そう言うとさっと酒をしまってしまうジャック。 「俺は十分に働いているだろう?」 「稼ぎの出ない仕事は仕事とは言わない」 シーザーが何かを言い返そうとしたときだった。 いきなり家のドアがバンッと、威勢のいい音を立てて開けられた。 びっくりしてシーザーの陰に慌てて隠れるポチョムキン。 そして、それに続く張りのいい声。 「覚悟しなさいッ! 極悪人ッ!!」 銅の剣を高々と掲げ、仁王立ちになって高々と宣言する。 紅い髪で長いストレートヘアーの少女。 着ているものは戦士の服のようだ。 年は、十七、八といったところだろうか。 「勧誘ならお断りだが」 シーザーがめんどくさそうに対応する。彼は少女には興味がない。 ジャックに至っては彼女の存在そのものを完全に無視している有様だ。 「これのどこが勧誘なのよッ!私はあんた達に盗られたものを取り返しに来たのッ!」 「人違いだ」 あっさり返すシーザー。 しかし、彼女は引き下がらない。 「とぼけないでッ!この辺りに住んでる盗賊で 悪人って言ったらあんた達くらいしかいないって聞いてきたのッ!」 「広場の何でも屋にか?」 「そう何でも屋の人が親切に・・・て、どうして知ってるのッ?!」 目を丸くする少女。 頭を押さえる二人。 どうしてルエンはいつもいつも彼らの家に招かれざる客を招くのだろう。 彼女の名は、リーシャという。 スオミ出身者だが、戦士を志し、ルアスで現在修行中だ。 修行中と言っても、生活費を稼ぐために、それなりに仕事もしなければならない。 だが、低レベルの者には地味で稼ぎの少ない仕事しか回ってこない。 そこで、たいていの人間は生まれた町の親元で修行するか、修業先の町で師匠を見つけ世話になる。 しかし、リーシャはそのどちらでもない。 彼女は自力で働きながら修行を続けている。 何か訳がありそうなのは一目瞭然だったが、彼らは別にそのことに対して興味は持たなかった。 何しろ彼らはコンビを組んでいる相方のことさえ、それが過去のことであれば全く興味を持たない。 とりあえず彼らが確認しておきたかったのは、 リーシャの何かを盗んだという人物が自分たちでないということである。 「盗まれたのは、仕事でスオミまで届けることになっていた預かりもののメダル」 盗った、盗っていないと言い続けていても仕方がないので、事情を話し始めるリーシャ。 「で、盗ったのは確かに盗賊なのか?」 更に言えば二人組で、しかも銀髪と黒髪で、しかもシーザーとジャックだったのかということだ。 「それが…」 途中ですり替えられていることに気づいたため、盗った人物はわからないという。 しかし、盗られたと思われる酒場で、隣に座っていた人物が盗賊だったとマスターに確認し、 そして、この町でそんなことをしそうな盗賊を聞き込んで回ったところ・・・・・・ 「俺達の名前が出たと」 「ごめんなさい・・・不確かな情報で悪人呼ばわりしてしまって・・・・・・ でも、人の物を奪って平気でいられるような人を私は絶対に許せないッ」 悪人呼ばわり・・・と言うより、彼らは悪人なので別に悪人と呼んでもいいのだが・・・・・・。 「・・・で、許せないからどうすると?」 面倒くさそうに半眼で訊くジャック。 「返して貰って・・・そして二度とこんな事しないように謝って貰うッ!」 おいおい・・・・・・。 シーザーとジャックは内心呆れていた。 よくこんな素直なことで今まで一人でやってこられたな…と。 もし彼らがリーシャのような人格ならばとっくの昔に殺されている。 確かに、本来はリーシャのような子が普通でなければならないのだが、 政(まつりごと)を放り出して病に伏せっているような王の統治する国に、 そんな素晴らしい治安が期待できるはずが無い。 一人で生きていこうと思うと、多少は道徳にはずれたことも避けては通れない。 特に、親のいない子供などの社会的弱者は・・・。 「初仕事のあんたには気の毒だが、メダルの一個や二個、事情を話せば依頼人もわかってくれると思うぞ」 一応言ってみるシーザー。 特に、リーシャのような低レベルの者に回った仕事だ。 さほど高価なものではないだろう。とは口には出せないが。 「メダルの一個や二個とか・・・価値の問題じゃないのよ。 人の物を平気で盗るような人間を見過ごすような真似は、私の・・・ て、どうしてこれが初仕事だってわかったの!?」 間抜けだからだよ・・・。 と、二人は同時に思ったがやはり口には出せなかった。 「装備している物から見て、レベルが低そうだったからな。 それにルアスにいて聞き込みをするまで俺達の名前を知らなかった。 って事は、最近ルアスに出て来たって事だ。」 と、ジャックは言ったが、別に彼は自分たちを過大評価しているわけではない。 ただ、自分たちの悪評がルアス中に浸透しているという自覚があるだけだ。 「・・・・・・私、確かに初仕事で、うかつだったかもしれないけど・・・でも」 世間には、二通りの考え方がある。 盗る方が悪いという考え方と、盗られる方が間抜けだという考え方だ。 「しかし…それにしては変だな」 ここにいたってさっきから何かを考えていたジャックが言った。 「何が?」 何気なく聞き返すシーザー。 「わざわざ偽物を作ってきて、酒場で隣に座ってすり替えるなんてのは、どう見てもプロの手口だ。 しかも偽物を作れたということは、リーシャがそれを持っているのを知っていて狙ってきたことになる」 つまり、はした金狙いの子供のスリなどではないということ。 「つーことは・・・もしかすると」 この時、二人の頭の中にひとつの予測がたった。 だが二人はその嫌な予想をはずれてくれるように祈ってあえて打ち消し、リーシャに訊いた。 「あんたの依頼人、他に何か言ってなかったか?」 「え・・・?別に、このメダルをスオミに届けて欲しいって、 スオミのゲートと帰りのルアスのゲートまでくれたし、ただそれだけだけど?」 それだけだけど・・・て、ゲート持っててわざわざ依頼する時点で何か変だと思わなかったのだろうか。 と、二人は思った。が、またまた口には出さなかった。 「とにかく、早いところ依頼人にメダルのことを話した方がいい」 そうして、依頼人とやらの反応を見るしか今の状況では打開策がない。 たいしたことでなければよいが・・・ ヘタをすると、リーシャは初仕事でかなりまずいことに巻き込まれかけている危険性もある。 二人と一匹はリーシャと共に慌ただしく出掛けていった。 なんだかんだ言って結局お人好し・・・・・・ というより野次馬根性で、トラブルに巻き込まれてしまう・・・・・・ というより飛び込んで往く二人は、また、とんでもないことに首を突っ込もうとしていた・・・・・・。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 続く(今回は少し長くなりそうな予感・・・外れて欲しいなぁ/汗)
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