短編(?):『メイ・リング』最終話


 デイブが跳ぶ。

 ジャンプ中に、爆弾を投げつけ、視力奪う。

 鞭がモスエリートの体に巻きついて、その動きを止めた。

 「今だ!早く!」

 素早いフットワークで、警戒しながら相手に近づく。

 ガリッ…。

 ピタがダガーでえぐると、宝石は、彼女の手に落ちた。



 その瞬間。

    モスエリートはその場に砂埃をあげながら倒れた。

                   そして、予想していた恐怖が二人を襲う。


 あたりに構えていたカプリコたちが、

 呪いから解き放たれたかのように、その高台目掛けて押し上ってきたのだ。

 「ピタ!逃げるぞ!!!!」

 デイブは宝石に気をとられているピタの手をつかんだ。

 我に帰るピタ。

 「え、あ…あっ!」

 腕をひかれ、宝石を落とす。

 彼女はデイブの腕を振り解き、それを拾う。

 そして、

 「デイブ!」

 その宝石を、

 デイブに向かって投げる。そして叫んだ。

 「あなただけでも生き延びて!それで、あたいの夢を叶えて!!!」

 その叫びは魔物たちの群れにかき消されてしまった。
                              彼女の姿と共に。

 ピタを助けるべく、姿を消して彼女のいたはずの場所へと道を切り開く。

    一緒に帰るって約束だろ!!

 狂ったように鞭を振るう。

 あたりを一掃するまで、鞭を握る手が血だらけになっても降り続けた。


 夕方になって、その魔物の波も静まり、バリケードの上の高台は、動かなくなったモスエリートと、
 
 姿を消すことさえも忘れた、うつろな目をした傷だらけの男。

 そして、目を向けることさえも苦しい、ピタの姿。

 「ピタぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」

 デイブの声は、ミルレス森の隅にまで響き渡ったという。

 そんなデイブのところに、カプリコ軍の増援が到着した。

 そして、宝石を失ったモスエリートも、息を吹き返した。


 彼は、彼女の言葉に従った。

 インビジブルを唱え、崖を滑り降りる。

 涙がバリケードを映す彼の頬つたい、宙へ舞い、きらめく。

 ひたすら、出口へ向けて走り続けた。

 彼女が、ディテクションをかけて迎えてくれるのを想いながら。

 もちろん、彼女とはもう言葉を交わせないこともわかってる。

 だからこそ、彼はそれを強く想った。

 ピタは、自分の死期が近いことを、なんとなく感じていたのだろう。

 その日は朝から、なんだかおかしかったのだ。ずっと、その前の日も。




 ――数十年後。

 王城の完成により、ルアス王国が誕生してから、すでに長い時が経ち、時代も移り変わってしまった。

 『カプリコの宝石』などという伝説は、もはや語り継がれてはいない。

 修道士と聖職者の集う、ミルレスの森の町。

 ここでは、時代の流れに逆らい、昔のままの姿を残し続けている。

 そんな、ミルレスの町のはずれに、一件の雑貨屋があった。

 からんころん…。

 客がひとり、入って来たようだ。

 その手には、なにやら壷のようなものが。

 「ありがとうございます。これで彼女の供養をすることができます。」

 深々と頭を下げる店主。

 髪ははげ、眼鏡をかけ、ずいぶんとやせ細ってしまったが、彼だろう。

 「それでは、これを差し上げましょう。」
 「いえ、気になさらないでください。わたくしにはもう必要のないものですから。」

 二言、客人に向ける店主。

 客には、ひとつの小さな宝石が散りばめられた箱が、手渡されていた。

 客は外に出て、箱を開く。

 中には、赤紫に妖しく輝く宝石のついた指輪があった。


 彼は、宝石屋を営んでいる。

 最も値打ちのある『宝石』は、彼にとって、最も値打ちのあるモノと交換された。

 それは、

 自分の愛した人。

 彼女の永遠の幸せを願い、指輪にはこう名づけられたのだった。

 祈りの指輪『メイ・リング』 と。




THE END

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