リレー試作品小説 その5


「っだァ〜〜〜! まだるっこしい!」
蒼のまわりにはすでに命を失った鼠が何匹も転がっている。

「しゃーない。リミットはずしてやる。もう知らねェからな。俺は」
槍を地面に突き刺し、柄を握り全身からオーラを発生させる。最悪の降臨―。

「あ、蒼さん? どうしたんですか?」
何も知らないハーレーが、突然うずくまった蒼に手をかける。

「く、るな」
「うわぁ!」
びっくりしたようにのけぞるハーレー。

「だ、大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込むハーレー。蒼の目は、覚醒し赫くなっている。

「すっごい充血ですよ、目。真っ赤ですし。
昨日寝てないんじゃないですか?はい、とりあえず目薬です」
「……」

全身の力が抜けていくのが自覚できる蒼。

「お前、それ素で言ってるのか?」
「へ…? あれ? あれれ? 目、青いじゃないですか。不思議だなぁ」

何か死ぬかも、俺。とか思う蒼であった。

「…で、紅さん何やってるんですか?」
「あれ? 見てわからない?」

そう言いながら穴のあいた壁付近にチーズを撒いている。
「チーズ撒いてるんだよ。ちなみにこれ、彼らにお土産でもらったものだね。結構美味だ」
海賊産だね、とか言っている紅。ついでに、とディカンの口の中にチーズの破片を突っ込む。

―おいしい。

「うわああぁ」
口の中でとろけるような甘味と、チーズ独特の酸味が絶妙にマッチして口の中ではじける。

「うんまぁああ」
目がどこかに飛んでいるディカン。それを微笑みながら紅は再びチーズを撒き始める。
(まあ、ちょっと板さんの知り合いのあの人からもらった薬混ぜてるからだろうけどねぇ)

えさに誘われてねずみの大群が追加される。

「さあ、がんばれ〜」


もうスキルとか何とか言ってる場合ではないので槍を突き刺すだけの蒼。
ただただルーチンワークのようにねずみの心臓を貫いていく。

「おい、テメェも手伝え」
「わかりました」
えい、えいとか言いながらスタッフでねずみをなぐりつけるハーレー。

「ちゅーちゅー!」
「うわ!? 怒った? ま、待って話せばわかるよぉ。落ち着いて」
「……使えねぇ」

どっと疲れが増した蒼。ふと視線を横に向けると、大きな洞窟からねずみが大量に。 

「―」
たらり、と流れる汗。

「無理だ! ということで逃げるぞハーレー」
「え? ちょ、ちょっとどっちに?」

ねずみの大群がくるのを見た蒼は逆方向に逃げ出した。急いで追いかけるハーレー。
おかげで二人は地面の模様が替わっていることにぜんぜん気がつかなかった。

「は? へ?」
突然目の前が真っ暗になる二人。
ああ、ゲートとラップか、と疲れた頭で考えながら蒼は目を閉じた。

「あーあ。つまんないの。もう終わり?」
謳華が机の上にひじをつきその上に頬をのせ、しゃべっている。

「まあ、仕方ないじゃないですか? それにあっちのほうがより楽しめるかと」
そういいながら紅はねずみたちのうえにホウ酸ダンゴを投げ始めた。

「またずいぶんとまだるっこしい処理法ね。板さんにでも焼き払ってもらえばいいのに」
「その板さんが主役ですよ。次の段階は」
にやり、と紅は笑った。

「まあ、ほどほどにしておくのね。さて、私たちはパーティの準備に入りますかね」
手伝ってくれます? と妖艶な微笑を3人の盗賊に向け、謳歌は立ち上がった。