第1話


平穏な日々、というものは決して続かない。

今回のソレは、そのいい証明になったのかもしれないな・・・・・・

と、ぼくは全て終わった今、そう考える。

だが、その考えが正しいのかどうかは今分からないし、

ぼくが全て終わっている、と思っていること自体間違っているのかもしれない。

だけど、そんな戯れ言、他者にとって見ればどうでもいいのではないだろうか?

関係のないものにとっては、始まりと結果だけを知ればいいし、

過程なんて、それこそ、巻き込まれたくない人にとっては、聞きたくもないだろう。

ならば、とぼくは考える。

もしそうならば、と自問する。

ぼくの果たした役割は果たして、──正しいモノだったのだろうか?








目の前に置かれている腕。

それに、その先についている手が握っているビショップスタッフ。

逆の端に視線を動かせば、残虐とまで言える斬り口。

「……ひどい」

言葉が漏れたのは、三人のうち誰からだったろうか。

「だから、ダメだって言ったのに……」

ヘルさんが、力なく言葉を吐き出す。

「お願い。無事でいて…………紅」

そもそもの始まりは、いつからだっただろうか。

確か、最初はリュープさんの知らせだった気がする。


「え?」

ぼくは、思わずそれを言った謳華さんのことを振り返った。

「何て言いました、今?」

「だから、リュープ、暴漢に襲われてコーウェンともども治療中。だいぶまずいみたいよ」

そんな、あのリュープさんが?

「いったい誰に?」

「暴漢。それしか分からないわ。でも、とりあえず人数は明らかに10人以上だったみたいね」

「サラセンの町の中で!?」

「そうよ。・・・・・・認めたくは無いけれどね。

誰も、役人や町の管理者に至っても、止めなかったらしいわ」

モンスターたちが統治する町、サラセン。

とはいえ、人間とは協定を結び、

彼らに町の管理をやらせることで、結果的に安全が保たれている町だったはずだ。

「どういうことですか?」

「さあね。とりあえず、どっかの誰かが買収か何かしたんでしょ。

ディカン、あんたも気をつけなさい。……って言ってもこれくらいヘルから聞いてるか」

「ええ……まあ、耳がタコになるくらい言われてます」

もちろん、ぼくを心配してのことだとわかっているので、ちゃんと毎回反応はしているが。

だけどその時は、その謳華さんまでもが被害にあうとは思っても見なかった。

「謳華さんが行方不明!?」

ぼくは師匠であるヘルさんの顔を見つめた。

「そうよ、ディカン。ついでに言えばミレル君もね」

「でもぼく、二日前くらいにここであの人と話しましたよ」

「その後よ。海賊の支配地域に入ったところから、ぜんぜん足取りが分からないの」

苦虫を噛み潰したような、ヘルさんの顔。

「──海賊? あの人、そんな恨み買ってましたっけ?」

海賊で行方不明。

このキーワードで思い出されるのは、昔からある逸話。

海賊の恨みを買ったものは、海の藻屑と化す──。

「そういうことじゃないみたいなの。どうも、手がまわってるのよね」

「はぁ──」

ぼくは生返事を返す。

「どういうことですか? 一体、これは」

「私に分かるわけないでしょう。

ただ、これは確信的なものでしょうね。だから、今後も起こると思うの。

ディカン、あなたはここにいるから大丈夫でしょうけれど、

リュープの件で分かったとおり、町の中も安心できないわよ」

「──分かってます、師匠」

心配して聞いてくれているのが分かるからこそ、ぼくは素直に返事をする。

「そう」

ほっとしたようなヘルさん。

「でも、心配ね。次は、誰が被害に逢うの?」

少し怯えたヘルさんの声に、ぼくは何と答えたらいいか分からなかった。