第8話



「く・・・、紅! ダメだ。いったん引くぞ」

蒼の超絶したスピードを持って振るわれた豪槍。

ダメージを与えた、と思った瞬間。

「は? なんでだ」

「こいつは、本物じゃない。幻だ」

「幻?」

相変わらず、カリルの口元には皮肉な微笑が浮かんでいる。

「わかるか。まあ、二度目だからな」

こつこつ、とカリルが歩いてくる。

「まあ、この前の仕返し、させてもらうとするか」

すっ、とカリルの姿が消える。不可視(インビジブル)―

「ありえねェ、何で幻がスキルなど…」
「簡単さ」

現れたのは紅の後ろ。

心臓のあたりを一撃。

「スキルではないんだろう。加えて、この一撃威力。全部、お前のモノだ」

刺したままの腕に、紅の血がぽたぽたと垂れる。

真っ赤になるカリルの両手。

「おま―」

目を見開く蒼。

ばたり、と倒れる紅。

「これで、あとはお前だけだな。蒼」

「おや、随分と騒々しいね」
「何の諍いだ?」

サラセンダンジョンに降り立った二人。

敵の数の多さのせいで、戦っている一方が知り合いだとは気がついていない。

「―少し早いですが、まあ予定通りですね。ようこそ、破戒の板さん謳華さん」

二人の後ろから聖職者が現れる。

「コーウェン君も丁重に預かっていますのでご心配なく」

気障に一礼をする男。

板は驚いた目をしている。

「君は…この前の攻城戦にいたね。まだ生きていたのか」

「その節はだいぶお世話になりましてね。

まあ、あれは知り合いから参戦を頼まれただけなので、さっさと逃げましたが」

蒼が手にかけたのは、所詮幻。

「誰なんだ、板?」

「リベンジスピリッツ使いの、聖職者だ」

「紹介、わざわざありがとう。はじめまして、かな?」

余裕の表情で唇の端を少し上げて笑う。

「あいつを煽ったのも、マリエの奴を殺した連中を無理やり引き入れたのもおまえの仕業か」

「ご名答。さて、ほかに聞くこともあるまい。―さあ、はじめようか」