第7話



「さて、僕たちは後始末におわれるわけだね」

紅と板、二人の前に置かれている二つのベッドに、それぞれヘルギアとルキアスが横たわっていた。

「どうするんですか、板さん」
「一応解決方法は考えてあってね。これを使う」

取り出したのは、いかにも怪しげな色をした液体が入った瓶が二つ。

「な、なんですか。それ?」

「カレワラの町外れに住んでいる、意地のものすごく悪い上に、

実生活上の性格まで曲がり腐っている知り合いの魔術師から譲り受けてね。

効果はなんと、人間の精神分離、だとか」

「まさか──」

「そ、君に思ってるとおりだね。ヘル君の精神を、ルキアスの肉体に上書きする」

「そんなこと、できるんですか?」

「さあ。ま、でも彼は腕は確かだからね。

完璧に上書きできなくても、一応ヘル君がルキアスの肉体の主導権くらいは握れるんじゃないかな?

どの道、こうでもしないと二人とも助からないからね」

板は、そう言うと瓶のふたを開け、ヘルギアの肉体へと注ぎ込んだ。

「で、こっちのやつをかければ完成、と」

第二液、とかかれた瓶の中身を、ルキアスへとかける。

「──細工は何とやら、ってね」



「へ?」

ぼくは、話が終わったことを察し、思わず声を上げた。

「今の話、本当のことなんですか?」

「あ? 信じる信じないのはお前の勝手だよ」

まあ、確かに退屈のしのぎにはなりましたけど。

でも、事実は小説より奇なり、とは言うけれど。

気がつくと、外で降っていた雨は既にやんでいる。

かすかに虹なんかも見えていたりする。

「それで、今とはどうつながるんですか?」

「あの後の話か? あんまり話す気は無いよ。どうでもいいことが多いからな。
それに私が答えると言ったのは一つだけだ」

「そうですか」

がちゃり、と言う音がして振り返ってみると、戸口に蒼さんが立っていた。

「蒼か。どうした、入りな」
「ルキアス、か」

意味深な口調でそういい、蒼さんは椅子に腰をかける。

「おい、新入り」
「なんですか?」

「お前の名前──たしかディカンプールでいいんだよな」
「ええ、そうですけど。何でですか?」

「いや、少し覚え間違いをしていてな」

ぼくの入れたお茶を手にとり、蒼さんは一杯口にする。

「雨、降っていたのか」
「ええ、そうですよ」

何かを思い出している感じに、蒼さんは少しばかり天井を見つめ、そして一言こう、言った。

「そういえば、ルキアス、お前と会ったあの時も──雨、だったか」