『ナゾの薬、騒動記』 その6


イリュームが試薬を飲んで1日が終わろうとしていた時

もう一人の1日も終わろうとしていた。

試薬を作り、自分で飲んだ『またーり聖』である。

午前10時ごろにルケで試薬を飲み、意識を失って倒れた挙句

1時間後に出来た人だかりを脱力状態に叩き落した張本人は…。


相変わらずルケの町にいた。

だが、彼の場合。イリュームよりも行動は早かった。

自分の体が女になってしまったと気が付いた途端に

近くにあった銀行からLv41聖女の光服を出して

近くでおしゃべりしている盗賊に鑑定してもらい

物陰にかくれるとさっさと着替えた。

髪の毛も2つに分けて結び、やっとそれらしい格好になると

またーり聖は、砂浜に座った。


(僕で女になったから、イリュームもきっと今頃は女の子に…。)

薬の効果が切れたら、謝ろう。と思っていた時。

彼女の背後に誰かがやってきた。


「どちら様ですか?」

振り向いて、きょとんとした表情で質問するまたーり聖に

「良かったら、俺と一緒に組まないか?」

と話を持ちかけてきたのは、一人の戦士。

「リカバリしかできないですが、いいですか?(^^?」

ニコッと善良そうな笑顔でそう言うまたーり聖に

「それだけ出来れば十分だよ(^^」といわれて

「…ありがとう(^ワ^」と笑顔で言うまたーり。

「えと…それじゃあ…狩場に…ねっ。」とドギマギしている戦士。

(…このノリで前衛とか引っ掛けるか+(・・))

あらたな悪事を思いついてLv上げが出来そうだ…。

「はいっ!(^ワ^」と無邪気に返事を返しながらも

またーり聖は、そう思った。

しかし、この戦士に目をつけられたのが、

またーり聖にとって辛いコトになるとは、当の張本人も予測できなかった。


「そう言えば、あなたのお名前は?(・・?」

狩場に入る前にまたーり聖は、質問した。

「ああ、名前を言い忘れたね。俺の名前は、ルウドだよ。(^^」

「ルウドさんですか。あ、私の名前は『またーり聖』って言います(^^」

「あー!そうなんだぁwまったりしてそうだよね(^^」

とルウドは、ニッコリと笑って言った。

「よく言われますw(^^」とまたーり聖は、笑顔で答えた。


それから2人で3時間ほどルケDで狩りをして別れた。

その後もいろいろな人たちとPTを組み、

またーり聖は確実に経験値を稼いでいった。


夜…。

空に月が昇り、またーり聖は相変わらず砂浜にいた。

潮の香り…隣にいる銀行家の歌声…いろんなものがあって

ここがルケだということを教えてくれる。

(やっぱりここはのんびりできるなぁw)いい気分で海を眺めていると

「あれ?またーりさん?」と聞きなれた声がした。

くるりと振り向くとそこに居たのは、今日最初に組んだルウド。

「こんばんは(^^」気分がいいせいか笑顔で挨拶していた。

「こんばんは。でも、こんなところにいたら風邪を引きますよ。(・・?」

と少し心配そうな様子で言うルウドに

「海の音が心地よかったので、つい聞き入ってました(^^」

と笑いかけていた。

「まるで詩人みたいですね(^ワ^」とルウドが笑う。

「詩人だったら、多分歌ってましたわ(^^」とまたーり聖が笑う。

(なんか、ルウドとは気が合いそうだ。でも、それは僕が女だから…。)

またーり聖は、ふいに思った思考を消した。

(僕はルウドみたく純粋な性格じゃない。ずる賢く、狡猾な者。

仲間以外には決して心を許す気はない。今だって女であることを利用する。

君とは違う。正反対に生きる者。)

そう思い直したまたーり聖は

「もう寝ます。おやすみなさい」とぺこりと頭を下げてその場を立ち去った。

「待って!眠る場所はあるの?!」と訊いたルウドを無視して走り去る。


そして、またーり聖は、『リターンポイント』の

おサルにひっついて眠りについた。

大きく丸い月が、ルケシオンの町を優しく照らしていた。