Please sing your name for me.]


 声が、聞こえる。

 祈りの声だ。

 その声が俺を現世へと引き戻そうとする。

 いやだ。
 俺はもう生きていたくない。
 俺は来世でルティアにあの時のことを償うんだ。

『でも、彼女はどうするの?』
 彼女?

『あなたは彼女に同じ思いをさせるの?』
 同じ、思い?

『ほら、彼女の声が聞こえないの?』
 彼女の、声?
「……! ……だ! ……ル!」

『聞こえるでしょう?』
「……やだ! 死んじゃ嫌だ! アル! 私をおいて行かないでよ!」
 プリス……。

 俺には、

 まだ、

 守るべき人が、

 居る。

『さぁ、受け入れて』
 君は、

『あなたはもう十分罪を償ったわ』
 ルティ――




「――リザレクション!」
 一瞬にして意識が復元する。

「アル! アル! 私が分かる?」
 涙を流す彼女の姿が俺の視界いっぱいに広がる。

「プリス……」
 彼女が俺を抱きしめる。

「よかった……」
 俺はプリスに抱きかかえられ身を起こした。

「お帰り。アル」
「お帰りなさい」
 二つの声が聞こえた。

「お師様。エステルさん」
 エステルさんは額に汗を浮かべ、その崩れ落ちそうな身をお師様に支えられている。

「エステルさんが蘇生を?」
「ええ」
「君、消し炭になってたんだよ」
 お師様が意地悪そうな笑みを浮かべる。

「あなた」
「いや、ごめん。でも本当さ。
 僕たちが爆発音を聞いて、ここに来たときには君はもう絶望的な状況だった」
 奥さんにたしなめられつつも、止めないところがお師様らしい。

「エステルさんに感謝しなさいよ」
 プリスの声はまだ震えている。

「……ありがとう、ございます」
「歩けるかい? 竜殺しの英雄さん。僕は妻を支えるのに精一杯でね。君まで背負っては歩けないよ」
 さらに意地悪そうな笑み。
 この人、俺が竜を倒したことに嫉妬しているのではないだろうか……。

「大丈夫です」
 俺は立ち上がる。

「プリスが支えてくれますから」

「竜殺しの英雄ともあろう者が、女性に支えられて歩くのかい?」
 疑いが確信に近くなる。まったくこの人はいつまでたっても子供だ。

「いえ。竜は……、二人で倒したんですよ」
 俺は寄り添うプリスに微笑みかける。

「アル。今、笑って……」 

 傍らにプリスがいてくれる限り、

「帰ろうか」

 俺はこれからもっと笑えるに違いない。

「……うん」

――Your name is Pris.