古の賢者達〜第2話〜


「どうかしたの?」

女性の声に振り向くと、
そこには、騎士団長のフェリア様と、
宮廷魔術師の長であり、俺の師でもあるサルディス師が立っていた。

「いえ、サーディアンが騎士になっているのを見て、意表を突かれまして」

正確ではないが、完全にうそでもないことを言ってごまかす。
サーディアンが、騎士の認証を受けたなんて、初耳だし。

「かなり前から、近衛師団の方には具申してたのよ。
 サーディアンほどの腕なら、騎士になって当然だってね。
 ただ、クエストを消化する時間がなくて、今になっただけ。
 この前、ルケシオンで、ドロイカン退治をしてもらったから、
 先日、正式に騎士としての認証式を行ったのよ」
すらすらと、流れるように言うフェリア様。

“あ・・・・俺がウィザードゲートを覚えている間にか・・・・“

俺が、上級魔術師として認められ、
ウィザードゲートの習得をしている間に、
セリス、サーディアン、ルークの三人は、ルケシオンに行っていた。

騎士の認証には、ドロイカン数匹を退治するという条件がつく。
それによって、個人の力量を示すためにだ。

”そのためにルケシオンに行ってたのか・・・・”

「その服もいいでしょ〜〜〜
 私が選んだの。
 この人の身体に合わせた特注なんだから。
 兜の宝石も、服に合わせたのよ〜〜〜♪」
嬉しそうに話す、フェリア様。

言われて、サーディアンの兜を見ると、
確かにピンクの宝石があしらってある。

「フェリア様が選んだ物でしたか」
俺は、必死に笑いをこらえながら、フェリア様に言う。

ここで笑おうものなら、確実に命がない・・・・・

自慢気に胸をそらすフェリア様。

それを見て俺は、

危うく、吹き出してしまうところだった・・・・・・

「さて、そろそろ始めようかの」

カルディス師の声に部屋を見ると、
修道士姿の二人が部屋へと入ってきたところだった。

「これで全員そろったわね」
それを見て、フェリア様も、頷く。

カルディス師と、フェリア様が一歩前に進み、
俺たち四人は、その後ろに立つ。

「よう集まった。
 明日から、4日の予定で、お前たちの修行の成果を試すとする」
厳粛な声で、カルディス様が話す。

その前、半円状に並べられた机についた9人の見習いたちが、
緊張した顔をしている。

“俺も、最初のときは緊張したな・・・・“

なんとなく、懐かしく思いながら、ふとルーシアを見ると、
さっきまでのはしゃぎ様はどこにやら、
一転真面目な顔で、カルディス師を見ていた。

「ここに集まったのは、各々の師から、
 ある程度の実力を認められた者達じゃ。
 じゃが、お前たちには、決定的に足りないものがある」

“おじいちゃんの声は、いつもと変わらないのに、
 何でこんなに緊張しちゃうんだろ・・・・“

おじいちゃんの声を聞きながら、私はそんなことを思っていた。

「それは、経験じゃ。
 いつもしているような訓練では、それは身につかん。
 旅をしたり、モンスターと戦ったり、
 そういう体験をしてこそ身につくものじゃ。
 そこで、今回みなにはスオミダンジョンを探索してもらう。
 そこで、できるだけたくさんの経験を積んで欲しい」

そう言って、カルディスおじいちゃんは
隣に立っている、騎士団長のフェリア様に目配せをする。

「スオミダンジョンは、たくさんの冒険者が探索を行っています。
 しかし、その全てを明らかにしたわけではありません。
 よって、あなたたちには、その探索をしてもらいます。
 古代の賢者達よってに作られたダンジョンには、
 その魔力が今なお満ちており、
 それを好むモンスターたちの住処となっています」
その言葉を聞いて、周りに座った人たちが、ざわめきだす。

「静かに」
それを遮るフェリア様の声で、ざわめきは止まる。

“けど、あんなこといわれたら不安だよ〜〜〜・・・・“

「あなたたちだけでは、ダンジョンのモンスターに敵わないかもしれません。
 それは、私たちも十分承知しています。
 ですから、今回は、4人の上級冒険者たちが、
 あなたたちに同行します」
言って、カルディス様と、フェリア様が場所を空けると、
後ろに控えていた4人が前に出る。

「この4人は、つい最近、古の竜を退治したほどの腕前です。
 あなたたちが、普段の鍛錬で身に付けたことを発揮できれば、
 みんな、無事にこの王宮へと帰ってこられるでしょう」

「すげ〜〜〜」
「竜って・・・・」
「かっこい〜〜〜」
それを聞いて、再びざわめきだす室内。

“えへへ〜〜〜なんか、嬉しいな〜〜“

みんなが見ている4人には、私のお師匠様が含まれている。
それが、ものすごく誇らしく思えた。

「それでは、4人に自己紹介してもらいましょう」
言われて、騎士様が、自己紹介を始めた。

「私は新たに騎士に任ぜられた、サーディアンだ」

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
そこまで聞いて、思わず私は席を立って声をあげてしまった。

「ルーシア」
お師匠様に睨まれて、私は頬が赤くなるのを感じながら席についた。

ゴホン・・・

サーディアンさんが、咳払いをしてから、後を続ける。

「私も騎士になって間もない。
 要するに、見習いの騎士も同様だ。
 お互いに、普段の生活では得られない、貴重な経験を積もう」

“言われてみれば、サーディアンさんってわかるけど・・・・
 あの服じゃ、わかりっこないってば・・・・“

私は、半分上の空で、それを聞いていた。
続けて、ルークさんが自己紹介をする。

「俺は盗賊のルーク。
 スオミダンジョンは、何度も行っているから、
 気楽に行こうや」
ルークさんらしい自己紹介・・・・

「ルークはこう言ってるけど、
 スオミダンジョンは危険な場所である事に変わりはありません。
 緊張しすぎるのもいけないけど、気を抜かないようにね。
 私は、聖職者のセリスといいます。
 4日間だけど、仲良くしましょうね」
いつもの歌うような声で、セリスさんが言う。

男子の中には、その微笑を向けられて、顔を赤くしてる子もいた。

「最後に、俺は、魔術師のレイク。
 確かに、ダンジョンは危険な場所だ。
 毎年、冒険者の中にも、数人が帰らぬ人となる。
 だが、俺たちがついているし、
 君たちは各師匠からいろいろな事を学んできたはずだ。
 それを生かして、経験を積んで欲しい」

お師匠様の言葉が終わると、また、みんなが真剣な顔に戻った。
それに頷いたフェリア様が、再びみんなに話し掛けた。

「この4人が、あなたたちと同行する冒険者たちです。
 生きて、この王宮へと帰りたければ、
 この者達の指示にはきちんと従いなさい。
 あなたたちのリーダーとなるのは、騎士のサーディアンです。
 精一杯、冒険をしてきなさい」

「今日は、みなの師匠には、修練を中止するよう言ってある。
 これから出発まで、各自の役割を確認したり、
 交流を深めるために費やす事じゃ」

カルディスおじいちゃんがそうあとを引き取ると、
ニッコリと笑ってから、フェリア様と2人で、部屋を出て行く。

“これから初めての冒険なんだ“

そう思うと、胸がドキドキしていた。