夢見る少女 プロローグ


雑貨屋の前で、1人の少女が買い物をしていた。

「わたし、大きくなったらお父さんとお母さんみたいな聖職者になるんだ」

「そうかい。だったら、いっぱいいっぱい勉強しないとねぇ。

はい、おつり700グロッド。ありがとねー。」

少女の言葉に、雑貨屋のおばちゃんは笑顔でそう言った。

「うん!」

少女は、タタッと元気良く駆けていく。


10年後・・・・・・

少女は剣をたずさえ、鋼鉄の鎧をまとい、アメットをかぶっていた。






ルアス王宮、兵士訓練場。

日夜、兵士達が己の腕を磨くため、鍛錬に勤しんでいる場所である。

今日の訓練場は、いつもと雰囲気が違っていた。

ガギィィィン!!

「まっ、参りましたっ」

手持ちの武器を吹き飛ばされた兵士は、

もうやめて、と言わんばかりの表情で訴える。

「・・・・・・次の者、かかってこい」

全てを見通すような目で、女戦士は周囲を見渡す。

その言葉に答える物はおらず、場内はシーンと静まり返る。

その中で、小声で話す兵士達がいた。

「隊長、あの戦士は何者なんですか? 強すぎ・・・・・・」

途中から敬語が抜けていたが、誰も気に出来る状況じゃなかった。

「・・・・・・新入りのお前は知らないか。リエル様だよ。

ルアス王の右腕だ。実力は王宮最強と言っても過言じゃないな。

昨日、任務を終えて帰ってきたらしい」

兵士達の質問に、隊長らしき人物が答える。

「へ〜、あの若さでしかも女・・・・・・。そして、かわいい・・・・・・」

「まぁ・・・・・・性格に難ありそうだがな・・・・・・」

「・・・・・・そこのお前達、元気そうだな」

リエルという名の女戦士がにらんでいた。

手には訓練用の木刀。

気が付けば、2人以外の兵士は全員倒れていた。

「げ・・・・・・」

2人は、あいた口がふさがらなかった。

「おっ、お前行けっ!」

「ええっ!?隊長、そりゃないっすよぉ〜」

隊長の言葉に、兵士は焦り出す。

その時、兵士訓練場に連絡係の者が走ってきた。

「リエル様、ルアス王がお呼びです」

「そうか、すぐに行くと伝えてくれ」

連絡係の者は、女戦士がそう言うと城の中に去っていく。

それを見て、胸を撫で下ろす隊長と兵士。

リエルはアメットを取り、汗を拭いて長い金髪を整えている。

その仕草にはまだ幼さすら感じ取れ、30人もの兵士をのしたとはとても思えなかった。






ルアス王宮、王の間。

「リエル、只今参上しました」

片ひざを着き、頭を下げるリエル。

アメットを右手で抱えている。

「リエルか。よいよい、頭を上げよ。どうも、お前はそういうところが堅苦しい」

「はぁ・・・・ですが・・・・」

ハッハッハッと景気良く笑うルアス王。

ルアス王は権力におごることなく、自然体な人物だった。

そういう意味でも、国民からの支持は厚い。

「お前には感謝している。今のルアスが平和なのも、お前の活躍があってこそじゃ。

ワシの孫娘と歳はそう変わらないのに、たいしたものじゃ」

「・・・・・・わたしには、目的がありますから。

それを果たすまでは死ぬわけには参りません」

「・・・・・・そうじゃったな。

今日、ここへ呼んだのは、そのことについてなんじゃ」

リエルの目つきが鋭くなった。

ジッとルアス王を見つめる。

「ルアス王の名を持って、ルケシオンの暗殺盗賊、ジャミルの討伐を命ずる」

「・・・・・・お前の両親は、優秀な司祭だった。お前の手で彼らの魂を成仏させてやってくれ」

ジャミルというのは、マイソシアでも有名な暗殺専門の盗賊だった。

10年前、ルアスがまだ内乱状態だった頃、幾人もの要人が彼の手によって暗殺されていた。

司祭の称号を持っていたリエルの両親もまた、その例外ではなかった。






そう、少女が戦士になった理由・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「復讐」




ただ、その二文字のため・・・・・・・・・・・・・・・・・・